所得が増えると、高価でもおいしい食品の消費が増加する。食市場の研究では、GDP(国内総生産)が増えると食肉需要が増大することが知られている。近年、中国でもこの傾向が顕著になってきた。
豚肉消費が圧倒的に多い
中国における食肉消費を理解する上で、食肉の種類を押さえることは重要である。
2017年の統計によれば、中国の年間一人当たりの食肉消費の内訳は豚29.1kg、家禽肉13.6kg、牛肉3.9kg、羊肉2.6kgで、豚肉が全体の6割を占めている(農畜産業振興機構「急拡大する中国牛肉消費の実態」https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_000440.html)。中国では何と言っても豚肉が愛されているのである。
豚はその味だけでなく、子孫繁栄・家内円満などの象徴としても人気が高い。中国産の豚肉石(中国語で猪肉石)というものがあるが、これは豚バラそっくりの石で、縁起がよいとして玄関などに飾られることが多い。
中国の人々にとってそれほど重要な豚肉だが、現在、中国ではアフリカ豚コレラや洪水の発生などの影響により価格が高騰している。2020年8月現在、前年比9割高で、庶民はなかなか食べられない状態だという。
さて、食肉需要1位の豚肉と2位の鶏肉だが、筆者の感覚からすると不思議なことがある。「豚」や「鶏」をメインの食材として訴える店を見かけないことだ。
日本には、「豚」や「鶏」をメインの食材とする料理店が数多く存在する。豚肉であればとんかつ専門店があり、豚骨ラーメンも人気がある。鶏肉であれば、焼鳥店や唐揚げ店がある。また、「豚〇」「鳥〇」というように店名に取り入れていることも多い。
中国ではその種の店が見当たらないのだ。しかし、牛肉と羊肉に関しては、メイン料理として訴求している店があり、店名に取り入れていることも少なくない。
ステーキの品質には伸び代残る
中国の牛肉料理店のジャンルとしては、ステーキ、焼肉、火鍋、串焼きなどを挙げることができる。現地でこれらを一通り食べたことがあるが、基本的に高価格である。また、牛肉麺を扱う店もよく見かける。その多くは緑色の看板で、ムスリムを意識したハラール対応店である。これについては改めて紹介したい。
ここではステーキについて記しておこう。筆者が滞在した中規模都市には、ステーキ専門店が10店舗ほどあったようだ。これらは店名やロゴに「牛」を示すことが多い。夕食時は混雑していて、満席のこともあった。客の多くは家族連れだ。小学生と思しき子どもでも、神妙な面持ちでフォークとナイフを使って牛肉をほおばっていた。裕福な家庭であることがわかる。
筆者は専門店3店とホテルでステーキを味わうことができた。この4例とも焼き方を聞かれることはなかった。提供されたのはすべて芯まで火が通ったウェルダンだ。聞かれた場合、筆者はミディアムを注文しただろう。一つの専門店はステーキの筋が目立って食べにくかった。筋切りをしていれば、もっと食べやすくなっていただろう。おいしいステーキ提供のため、まだまだ努力する必要がある。
体を温める食材として人気の羊肉
中国の羊肉料理で、よく見かけるのはスープの羊肉湯(ヤンロウタン)と羊肉麺(ヤンロウメン)である。「○羊湯坊」というように店名に加わることもある。中国で羊肉は身体が暖まる食材と考えられており、寒い時期には人気が高まる。中国の羊肉料理のジャンルは、この他に牛肉と同様に焼肉、火鍋、串焼きなどがある。
豪華な羊料理を味わった経験がある。仔羊の丸焼きである。丸焼きと言っても、火に掛ける前に全体が蒸してあり、すでに喫食できる状態である。これに外側から火を当てて、焼き目がついた部分をそぎ落として、好みのたれをつけて食べるのである。皮の部分が香ばしく、ビールとの相性も悪い訳がない。ボリュームがあるので、食べきれない。残りはドギーバックで持ち帰り、朝食として楽しんだものだ。