海外における日本食レストランの数が増えている。農林水産省は世界の日本食レストラン数を継続的に調査してきた。2013年約5.5万店だったが、2019年には約15.6万店にまで増え、6年間で約2.8倍としている。
- 農林水産省「和食に対する世界からの注目」
- https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/wasyoku_unesco5/data.html
世界に広がる日本食レストラン
このように世界で日本食レストランが増加しているきっかけの一つとして指摘されるのは、2013年に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことだ。ただし、「和食」と「日本食」はイコールではないので、その違いについて押さえておきたい。
もとより、定義や分類にはいくつかの説があるが、わかりやすいのは、江戸時代までに確立された料理が和食で、明治時代以降に誕生した食肉利用の料理も含めるのが日本食というものである。前者には刺身やすし、鰻かば焼き、天ぷら、そば切りが含まれる。後者では、すき焼き、豚カツ、鶏唐揚げ、ラーメンなども含まれることになる。
なお、筆者は江戸時代までに確立された和食の魅力を“3シー”と呼んでいる。すなわち、「おいシー、ヘルシー、美シー」である。
中国の日常に浸透する日本食
さて、世界で増えている日本食レストランだが、地域別で目立つのがアジア圏で、2019年に約10.1万店と世界の65%を占める。そして、そのなかでもとくに多いのが中国である。2015年に2.3万店となり、2017年には4万店を超えたという(Record China「中国で日本食レストランが大人気!2年で7割増加―中国メディア」https://www.recordchina.co.jp/b651817-s0-c20-d0062.html)。
チェーンでは早くから進出した牛丼の「吉野家」(1992年北京出店)や「味千ラーメン」(1996年香港出店から中国本土へ進出)などの努力があるだろう。両チェーンとも、日本と同じものを持ち込んだままにせず、中国の人々に支持されるようにメニューや量をローカライズしてきた。
ほかに、2004年、「CoCo壱番屋」が上海市に進出して徐々に店舗を増やしている。また、2008年、「天丼てんや」がはやり上海市に進出している。筆者は、このどちらの商品も人々に支持される可能性が高いのではないだろうかと考えている。
それにしても注目したいのは、これらを含む数多くの日本食が中国の日常に深く受け入れられている事実である。人々が集まるフードコートでは日式ラーメンや巻きずしを販売する店舗が少なくない。
また、大規模超市(日本でいうGMS/総合スーパー)の惣菜コーナーでは、刺身やすしといった日本食が大きなスペースを占めている。すしネタとしては、広州市の「イオン」に並ぶ商品では、エビ、タコ、トビコ、カニカマ、鰻かば焼きなどがあった。筆者の感想としては、どのネタもおいしそうに見えるのだが、酢が弱いため、日本人には物足りなく感じるだろう。
大衆店と高級店の両方がある
筆者は中国の中規模都市にしばらく滞在したことがある。そこには「吉野家」や「味千ラーメン」はなかったが、日本食レストランは10店舗程度あった。価格帯や商品の種類と品質はさまざまで、差異は大きい。
大衆店の場合、ターゲットは若者や女性である。そうした店舗では、店内を日本のアニメのキャラクターや浮世絵で飾っていることが多い。扱う商品は店により異なる。筆者は、こうした店では「日式居酒屋」をうたう店に行ったことがあるが、メニューにはサラダ類、唐揚げ、とんかつ、卵焼きなどの他、すき焼きや豚骨ラーメンなどがあった。
高級店では様子が異なる。装飾は日本建築のたたずまいで、間仕切りにふすまや障子を使っていて、床の間には掛け軸や盆栽が飾られている。畳の部屋もあるが、掘りごたつ式になっている。
このタイプの店のターゲットは高額所得者である。提供する料理や酒類もかなり本格的と言える。ただし、食材の流通には制限があるようだ。たとえば、刺身ではサーモンが多く、アオヤギもよく見かけるが、マグロをそろえている店は決して多いとは言えない。
日本酒はこれからに期待
中国の日本食レストランでは、酒類はキリンビールやアサヒビールをそろえていることが一般的だ。このどちらも中国産である。日本酒は置いていない店があり、置いてあっても飲むに堪えないことがある。メーカーは不明だったが、中国メーカーによる製品の可能性がある。しかし、おいしい日本酒を置いている店があったことも確かである。中国にも日本酒のメーカーが進出しているが、造られる日本酒はおいしいに違いない。
中国における日本食に関しては、まだまだ多様な可能性がある。将来は明るいと考えている。