中国では、都市から車で30分ほど走った辺りに都市住民をターゲットとした農家が存在する。
都市住民向けの野菜・果物生産
筆者は東京都三鷹市の住民だが、周囲の農家は頑張っている。ターゲットとなる消費者は、周辺の住民である。商品となる作物はトマトやキュウリなどの野菜が多い。新鮮な野菜がおいしいことはよく知られているから、大切な存在だ。
日本では、このように大都市・東京にも多くの農家が存在する。三鷹市を含む多摩地域の農業は、都民への野菜供給基地としては近郊農業であるし、都市化が進んだ中で行われている農業としては都市農業である。
しかし、中国では、これら日本の近郊農業・都市農業に当たるものは存在しない。それでも、都市から車を用いて30分以内で行ける地帯で営農する農家はよく似た存在と言っていいだろう。彼らは他の地域や食品加工向けに出荷するのではなく、都市住民を主要なターゲットにしているためである。
そうであれば、売れる作物として選ばれるのは、野菜に加え果物がメインになる。その上で、どうすれば、都市住民の支持が得られるかを考えることになる。
まず指摘できるのは、季節の先取りである。温室を用いた促成栽培が候補に挙げられる。
日本の近郊農業でも、ビニールハウスやビニールトンネルを使った促成栽培は広く行われている。中国も同様と言えるが、中国で一般的なのはハウス栽培で、しかも独特の構造を持った大型の半地下タイプのハウスが用いられる。これは、北側にコンクリートなどで壁となる構造物を造り、その上部から南側地表まで弓なりに支柱を渡し、これにビニールシートを張る。つまり、ビニールシートは南側だけで、電動で開閉できるようにしている。
ほかにも近年は温度調整が容易なアルミ製フレームの大型ガラスハウスを導入する例もある。
人気のフルーツ狩り
収穫した作物は、露店(本連載第11回参照)で販売するケースも少なくない。露店では野菜以外にも多様な商品が販売されるが、大都市では景観上好ましくないという理由で制限されてきた。それがコロナ禍をきっかけに見直されている。失業対策のためである。
さらなる工夫として、都市住民を農場に呼んで直接収穫させる方式を導入している農家が多い。筆者も、出掛けて行ってミニトマトやセロリを収穫したことがある。そのときは代金を支払って農場から戻った後、馴染みの飲食店に収穫物を持って行って料理してもらった。収穫し立ての野菜はやはりおいしい。しかも、収穫でそれなりに汗をかいたので、普段以上にビールがうまくなる。
しかし、この方式では、なんと言っても人気があるのは果物である。果物を自分で選んで摘み取ることは大変楽しいものだ。そして果物の場合は食べ放題になっていることが一般的である。子供はもちろん、大人だって大喜びで参加する。
筆者も、中国でのイチゴ狩り、サクランボ狩り、ブドウ狩りを楽しんだことがある。イチゴは温室だが、サクランボとブドウは果樹園である。園地は鳥害対策のため、網で囲っていることが多い。サクランボ農家では、果樹に直接網を被せていた。これだと網の隙間からついばまれることがあるが、多少の被害は気にしないということだ。
イチゴ狩りやサクランボ狩りに行った折は、いずれも美しく色づき、ちょうどよい収穫時期だと思い、期待が高まった。ところが、口に含んでがっかりしてしまった。甘味に乏しいのである。このことは果物紹介(本連載第8回)の記事のとおりである。
ブドウは紫色の中球だった。摘みながら口に運んだが、こちらは十分に甘く、堪能した。遠慮したのだがたくさん分けてくれて、しばらくはブドウ三昧の日々になったものだ。