青島で味わった海鮮の蒸気料理を紹介したい。これは、筆者がこれまで抱いていた中国料理のイメージをくつがえすものだった。
日本料理は食材の持ち味を生かして調理する。例として、刺身や野菜の煮物が挙げられる。一方、中国料理は菜刀(中華包丁)で手早く刻んで、強い火力で調理するというイメージを持っていた。だが、青島のレストランの蒸気調理の料理は、このイメージに反して、魚介類の持ち味を生かしたシンプルな調理法だった。
蒸気調理機を備えたテーブル
この料理は、客席のテーブルに備わっている蒸気調理機で調理する。これは、縁がテーブルの天板面と同じレベルになるように鍋が埋め込んである。これをヒーターで加熱し、鍋上面に置いた穴あきの板から蒸気を噴出させる仕組みだ。
そこへ食材を盛った皿を置き、上からガラス製の半球状の蓋を被せれば準備完了だ。皿を置く台には穴が開いており、蒸気が当たった食材から滴るダシは鍋に落下する。
鍋にはスープとともに米、野菜などを予め投入しておく。店員が蒸気調理機をONにして、順次食材を運んで来る。その前に、調理機で食器類を蒸気殺菌する店舗もある(本連載第10回参照)。
銘々のお客は、食事の前に調味料を準備する。中国の醤油や味噌、ラー油などの調味料とともに、ネギやトウガラシ、ゴマなどが並んでいるコーナーがある。これらを混合して、自分好みのタレを作るのだ。
悶絶するシャコ
この料理のスタートは二枚貝であることが多い。アサリ、ハマグリ、イタヤ貝などである。一種類単独で出ることもあるが、数種のミックスの場合もある。店員が食材の皿を台に載せて時間をセットする。時間になると、店員が蒸し上がった食材をテーブルに移す。この初回の時間はやや長く感じられるのだが、それだけ食材がおいしくなるというものだ。
二番手はカキのことが多い。これは通常、ひと手間かけてあり、貝殻の上にハルサメや香味野菜と一緒になっている。
さらに続くのが、大型エビ類になるが、シャコが出ることもある。シャコの場合は活物を使い、これが蒸気の中でもだえ苦しむ様子は残酷だ。シロウオの踊り食いと比べると、どっちが酷いだろう。筆者は心の中で手を合わせ、「南無阿弥陀仏」と唱えてしまう。
そうではあるが、これはおいしい。ただ、シャコは好物だが、海老に比べ皮が剥きにくい。尖っている部分があるので、油断するとけがをしてしまう。
これらに点心類が加わることもある。そして締めとして、鍋の中で食材から滴っただしが合わさった雑炊を食する。これがおいしいことは、改めて説明する必要はないだろう。
なお、この料理で食材に魚類が加わったことはない。理由は不明だが、食材の形状を尊重するという文化があるかもしれない。
この蒸気調理の海鮮料理は青島地区で経験したものである。中国国内で、このタイプの料理がどの程度普及しているかは不明だが、日本国内で調べた範囲では同様のものは見つけられなかった。しかし、高級かつ人々の興味をそそる中国料理として、東京の銀座にあっても繁盛すると、筆者は考えている。おいしいだけではない。食材の持ち味を活かし味わいたい日本人の感覚にもフィットするためである。