第30回フード・エキスポの展示を振り返る。まず、日本からの出展について紹介する。
今回、第30回フード・エキスポ(2019年8月15日~19日、主催:香港貿易発展局=HKTDC)の取材のために私が香港に入ったのは、会期前日の14日(水)だった。
その直前の12日〜13日には香港国際空港発着の全便が欠航ということになったので、14日もひょっとすると香港行きの飛行機は飛ばないのではないかと考えながらおそるおそる羽田へ向かったが、結局問題なく進み、気がつけば香港に着いていたという印象だった。
香港国際空港の到着ロビーは、前日までイギリスのメディアのライブ配信で見ていた混乱を感じさせる様子は全くなく、平穏そのものだった。デモ関連の人としては、バゲージクレームから出場した箇所にツアーの迎えの人々に交じって、「暴動ではない」といった意味の横断幕を掲げている数名と、バス乗り場付近で数名が演説し、それを十数名のENGが取り囲んでいるといったぐらいだった。
空港から、展示会場のある湾仔エリアまでの高速道路とそこから見える一帯も、平常どおりと見えた。
ジャパンパビリオンは92社が出展
今回の日本勢の出展数は274で、今年も海外勢(中国本土および香港からの出展以外)では最大となった。このうち、JETRO設置のジャパンパビリオンには92社が出展。ジャパンパビリオンはBtoB商談がメインのトレードホール内で他を圧倒する陣容で展開しているが、今回はとくに、他の国々で小間がありながら不在というブースを散見し、直前に出展を取りやめたり遅れて到着したところがあったようだ。
会期中の来場バイヤー数は昨年より3,700人ほど減少したが、来場したバイヤーはより目的意識がはっきりしていて、しかも他の展示に若干歯抜けがあった分、よりジャパンパビリオンをはじめとする日本からの出展に足が向き、商談にも熱が入ったという事情があったかもしれない。
また、ジャパンパビリオンのオープニングセレモニーは、吉川貴盛農林水産大臣のスケジュールの都合で2日目の午前に行われるという変則的な形となったが、これもデモや交通の都合で初日の来場をあきらめた人を集められたということで、結果的には日本勢にとって吉となったかもしれない。
富裕層向けの自動販売機戦略を紹介
日本の出展者の中で、今回異彩を放っていたのは、静岡県を中心に国産農産物を海外に紹介するプロダクトリング(静岡県浜松市、山本洋士社長)。同社は現在、タッチパネル式の自動販売機を香港に展開中で、この展示が目を引いた。
同社は国産農水産物の生産者等から海外へのセールスを請け負っているが、この自動販売機を使って香港市民にリーチしようというもの。パネルでは商品の説明ビデオも流れ、メディアとしても機能する。
香港の富裕層向けのマンションには、ロビー階がクラブハウス的になっているタイプのものがあり、同社ではそうしたところを中心に年内に20カ所近くの設置を予定している。今回の展示では、この展開を香港のビジネスパーソン向けに紹介するだけでなく、実は日本からの出展者にも認知を広げ、活用していってもらいたいという狙いがあったという。
実際、出展者側からも熱い視線を浴びていて成果が出たようだ。
海外で知る日本産品の価値
プロダクトリングの例のように、来場者同士でのつながりや情報交換から新しいアイデアやビジネスの形が飛び出すのも、フード・エキスポの特徴と言える。
今回、そのことが浮き彫りになるような交流があったのは、岐阜県のジビエを扱うキサラエフアールカンパニーズ(岐阜県揖斐川町、所千加社長)だ。
同社は岐阜県内で捕獲される鹿を集荷するネットワークを構築している。これにより、とかく「あるときはあるが、ないときはない」となりがちなジビエの安定供給体制を整えている。衛生的な処理場をいち早く完備し、部位ごとの活用のノウハウも積み重ねてきた。レストラン向けに正肉部分を出荷することを主軸にしながら、それ以外の部位を各種の煮込み料理に加工し、ワインショップに卸すといった立体的な商品展開も特徴だ。今回はさらに、未活用だった骨もペット用にと紹介していた。
昨年の出展時には、香港や中国本土にニーズがあり、しかも中国では現在鹿の捕獲が禁止されているという情報もつかんだ。今年、さらに耳よりな情報をもたらしたのは、カナダからの来場者だったという。
「非常に珍しがっていました。カナダでも鹿猟はありますが、ハンティングしたものを商業的に販売することが禁止で、それは他の多くの国でも同様で、日本の例は希だというのです」(所社長)
そして、「畜産で飼育されたものではない、100%天然の恵み」という点をアピールすべきということと、パッケージ等にも日本らしさを盛り込んではどうかといった具体的なアドバイスも得られたという。
食経験がある商品を深耕する場
基本的なニーズがあり、そこに日本らしさなど独自性を乗せることが成功につながると感じているのはキサラエフアールカンパニーズだけではない。
國和産業(岡山県倉敷市、友國正明社長)は、干し柿とそれを加工した菓子の「柿巻」を扱っている。
「柿は熱処理ができない、変色しやすい、賞味期限が短いなど、いわば食品メーカーはあまり扱いたくない難しい商材です。当社はそれを乗り越える製造技術で伸ばしてきましたが、それは輸出も可能にする商品にできたということです。そして、香港、中国には干し柿の食経験がありますから、輸出先として大きな可能性を感じています」(貿易担当、岡山幸二郎さん)
また、大根音松商店(石川県七尾市、大根富男会長)は、能登のなまこを扱う会社だが、乾燥なまこだけでなく、「なまこ粥」やプディングの「パンナマコッタ」といった商品も扱う。
「中国にはなまこを珍味として扱う食文化がもともとある。そこに高品質ななまこを供給したいのはもちろんのこと。しかし、なまこは戻すのに時間がかかってたいへんなもの。また、高価なもの。これを、もっと身近な商品として、いろいろな人に、いろいろなときに味わってもらいたい」(大根富男会長)
わかっているものについて、さらに利用の形を広げ、市場も広げる。香港市民の好奇心と日本びいきが、そうした挑戦を加速する。そこに期待しているわけだ。