食品安全情報(化学物質)No.25(2011.12.14)

国立医薬品食品衛生研究所が月2回発表している「食品安全情報」(化学物質)。EU―日本会合は太平洋の魚を摂取するヒトのリスクはゼロであると判断した。一方、食品中のヒ素を巡る議論が拡大の兆し。

注目記事

【EU】一部の食品のカドミウム規制値改訂について

 欧州食品安全機関(EFSA)が新しい包括的食品摂取量データベースを用いてカドミウムの暴露評価を精細に行っており、結果は2012年1月に報告される予定である。この精細な評価に基づき、EUではチョコレート/ココア製品、油糧種子、ジャガイモ、デュラム小麦およびミルクのカドミウム最大量(規制値)について検討している。

【EU】海事フォーラム:福島の海洋環境リスク評価のための「EU―日本会合」の結果

 東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、EU市場における汚染シーフードのリスク評価とEUの海洋科学者による日本への援助について議論するため、EUでは2011年10月3日に会合が行われた。

 会合では、海洋へ放出された放射性物質は希釈されることや魚は放射性物質を排出することを考慮して、太平洋の魚を摂取するヒトのリスクはゼロであると判断した。そのため、EUでは今後も注意深い対応を継続するが、モニタリングは緩和する必要があると指摘している。

【EFSA】現在EFSAが化学物質の食事暴露評価に使用している方法の概要

 食品中に含まれる化学物質の健康影響は、その化学物質の食事からの暴露量(摂取量)と毒性学的に懸念のある量との比較により推定される。これを「食事暴露評価」と呼ぶが、欧州各国で食事暴露評価に必要なデータの取り方が違うことや、EFSAの専門家の間でデータの評価方法が異なることが問題視されている。そこで、EFSAでは食事暴露評価を今後どのようにハーモナイズしていけばいいのかを検討した。

※ポイント:食品中の化学物質の対策では、問題となる化学物質を普段どの程度摂取しているのか、摂取量が多いのはどんなグループなのか、安全性や経済性、実践性から見てどの程度までなら規制できるのかなどの見極めが重要となってくる。だから、その見極めのための方法論を予め議論しておくのは非常に大切なこと。

「費用も労力も限られているのだから、より効率的で適切な統一された評価方法を考えましょう。しかも優先的に対策が必要な化学物質や地域がわかるように、評価方法を統一して比較できるようにしましょう」というのがEFSAの姿勢である。

【FDA】リンゴジュースとヒ素
【EurekAlert】ヒ素暴露源としてのコメ

 リンゴジュースからヒ素が検出されたとの研究報道を受けて、米国食品医薬品局(FDA)は、リンゴジュースやジュース製品のヒ素をさらに減らすためにガイドラインの作成および濃度基準の改訂を行う可能性があることを示唆した。ただし、当初からFDAはリンゴジュースを飲むことによる健康リスクは低いことを強調している。

 さらに、研究論文の雑誌PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences)では、ヒトのヒ素暴露源としてのコメに注目した論文が発表された。

※ポイント:ヒ素が抱える問題は、天然に存在する環境汚染物質のためさまざまな食品で存在を避けることができないということ。また存在が避けられないのに、遺伝子傷害性のため低くければ低いほどいいという議論になってしまうこと。コメに含まれるヒ素については、これまで英国などで問題になっているが、今回発表されたPNASの論文によってさらに議論は拡大しそうである。

食品安全情報へのリンク

「食品安全情報」
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/index.html

食品安全情報(化学物質)No.25 (2011.12.14)
http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2011/foodinfo201125c.pdf

今号の目次

【EC】
1. SCFCAH – Toxicological Safety of Food Chain(2011年11月23日の概要)
2. 海事フォーラム:福島の海洋環境リスク評価のためのEU-日本会合の結果
3. 食品および飼料に関する緊急警告システム(RASFF)

【EFSA】
1. EFSAはビスフェノールAの安全性について助言し2012年の意見レビューを確認
2. 現在EFSAが化学物質の食事暴露評価に使用している方法の概要
3. 暴露評価のための食品分類および品目システムの開発報告書とその実施と利用についてのガイドライン
4. クマリン血液凝固抑制剤を使用している患者にとってのグルコサミンの安全性についての声明
5. 齧歯類で丸ごと食品/飼料の90日間反復投与経口毒性試験を行う際のガイドライン
6. 健康強調表示に関する科学的意見
7. 飼料添加物に関する科学的意見
8. 香料グループ評価
9. 食品と接触する物質として使用される物質の安全性評価

【JRC】
1. プラスチックほ乳瓶からの化学物質の溶出についてのJRCモニタリング研究の最初の結果発表

【FSA】
1. 新しい食品表示規制発表
2. コーヒーショップのカフェインで妊娠中は健康リスク?
3. 多動と関連する色素を含まない製品更新

【MHRA】
1. FSCブラックコホシュ製品が回収される

【CRD】
1. 食品中残留農薬に関する専門委員会(PRiF)

【BfR】
1. 狩猟肉のダイオキシンとPCBは健康リスクとはならない
2. 植物ベースの食品の薬理活性のある残留物質
3. 肉製品のトランスグルタミナーゼ

【RIVM】
1. オランダの環境放射能:2009年の結果

【EVIRA】
1. Sorbex活性炭製品についての間違った情報は危険な可能性がある

【FDA】
1. 消費者向け情報 リンゴジュースとヒ素についてのQ & A
2. 消費者向け情報 FDAはリンゴジュースのヒ素調査を拡大
3. FDAとFTCは「ホメオパシー」HCG痩身用製品を市場から排除するために協力
4. 警告文書(2011年11月29日、12月6日掲載分)

【USDA】
1. 事前表示認可システム:一般表示認可

【NIEHS】
1. US Tox21は1万の化合物のスクリーニングを開始

【FSANZ】
1. 麻(hemp)申請報告書について意見募集
2. 食品基準通知
3. 食品規制に関する立法と管理フォーラム
4. ファクトシート:日本産食品の安全性
5. 食用色素

【NZFSA】
1. トータルダイエットスタディ:ニュージーランドの食品への信任

【香港政府ニュース】
1. 野菜が安全性検査に不合格
2. 漢方薬表示法が始まる
3. トラピストミルク製品リコール
4. 乳児用粉ミルクは安全
5. アルカロイド中毒調査
6. 2つの漢方錠剤を摂らないように

【KFDA】
1. 日本原子力発電所関連
2. カフェイン、分かって召し上がってください!
3. 韓国の高麗人参の農薬基準、アメリカでも通じた!
4. 海外インターネットサイト販売製品注意!

【その他】
・食品安全関係情報(食品安全委員会)から
・(EurekAlert)ヒ素暴露源としてのコメ

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About 登田美桜 39 Articles
国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室室長 とだ・みおう 農学博士。国立医薬品食品衛生研究所は、医薬品、食品、その他生活環境中に存在する物質について、品質、安全性、有効性を評価するための試験、研究、調査を行う機関。 安全情報部の「食品安全情報」は、食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報を伝える。