こんにちは、コロです。現在、商業的に栽培されていて、日本も含め世界中で食品や飼料などとして利用されている遺伝子組換え作物の主なものには「害虫抵抗性」のものと「除草剤耐性」のものがあります。害虫抵抗性がどのような仕組みなのかをお話しましたので、今回からは、除草剤耐性の遺伝子組換え作物について、少しお話しましょう。
ルル:除草剤耐性……って、何ですか?
コロ:Bt遺伝子組換え作物に対する緩衝区は、非遺伝子組換えの同種の作物を植えることによって作られます。
コロ:除草剤耐性とは、ある一つの除草剤をまいても枯れない……という意味です。主なものとしては、グリホサートと呼ばれる除草剤をまいても枯れないものがあります。どんな除草剤も効かないということではありません。グリホサートはラウンドアップという商品名で売られている除草剤の成分で、植物の茎や葉にかかると、その植物を枯らしてしまうものです。どんな植物でも枯らしてしまうので便利ですが、作物が植わっている畑にまくと作物も枯らしてしまうので、使うことができません。
ルル:でも、すべてを枯らしてしまう……なんて、すごく恐い除草剤ではないんですか?
コロ:いいえ、そうではありません。グリホサートは植物には毒ですが人や家畜などの動物に対する毒性の比較的低い除草剤なんですよ。すべての植物を枯らしてしまうのは、すべての植物が持っている植物が生きていくためになくてはならない酵素を働かなくしてしまうからなんです。
ルル:どういうことですか?除草剤はすべての植物が持っている機能をだめにしてしまうのではないのですか?
コロ:例えば、田んぼには除草剤はイネを枯らさないものを使います。イネの仲間の植物には効果がないものを選んで使います。もちろん、その作用する植物の種類は限られていますが、枯らしてしまう植物の種類の数と毒性とは直接には関係ありません。それに、生えている雑草の種類が多ければ、それだけ多くの種類の除草剤をまかなくてはなりません。
ルル:その点、グリホサートは1種類の除草剤ですべての雑草が枯れるのでいくつかの除草剤を混ぜて使う必要はないのですね?ということは、使う除草剤の量が減るのですか?
コロ:極端に減るということはないかもしれませんが、グリホサートという除草剤は除草剤のなかでも毒性の比較的低い除草剤で、分解性も高いので、多くの種類の除草剤を使っていたときに比べ、環境への影響も低くなることは確かですよ。それでは、どのようにしてグリホサートが植物を枯らしてしまうのかを、まず説明しましょう。
ルル:すべての植物を枯らしてしまうのですよね。それなのに……どうして、毒性が低いのですか?なんとなく、まだ納得できません。人間には影響はないのですか?
コロ:それでは、まず、グリホサートがどのように働いて植物を枯らせるのかを説明しましょう。「代謝経路」という言葉を知っていますか?
ルル:代謝、たいしゃ?……けいろ?ですか?なんとなくわかるようなわからないような……。
コロ:代謝経路とは、生物が吸収した栄養分を体内で使える形に変えて自分の体の成分や活動するためのエネルギーを作る道筋のことです。たとえば、生物の成分としてたんぱく質はとても重要ですが、たんぱく質はアミノ酸という物質でできています。アミノ酸には20種類あります。植物は他の栄養分から20種類すべてのアミノ酸を体内で作ることができます。それぞれのアミノ酸はアミノ酸の種類ごとに特定の代謝経路を通って作られます。その代謝経路の中の1ヶ所をグリホサートが止めてしまうのです。この経路は植物にしかないので、植物にとっては死活問題ですが、動物には影響がありません。
コロ:どちらかというと、運動会の玉転がしを思い浮かべるといいかもしれません。スタート地点を栄養分とすると、そこから、何人もの人が玉をリレーしてゴールに持って行きます。その間に、それぞれの人が玉に飾りをつけたり、削ったり、半分に割ったりして、ゴールに着いたときにはアミノ酸にするのです。ちなみに、それぞれの「人」に当たるのは、実際の代謝系では「酵素」になります。
ルル:そうか、そうか。そうやって、それぞれのアミノ酸が作られるのですね。
コロ:実際には、それぞれのアミノ酸が別々の道筋を持っている訳ではなく、似た構造を持っているアミノ酸どうしは、途中までは同じ道筋を使って、だんだんに枝分かれしたりしてそれぞれのアミノ酸が作られます。グリホサートは、この玉転がしの中にいる特定の一人の「人」が作業をして玉を次の人に渡すことをできなくしてしまうのです。その結果、その先にあるゴールに玉が届かなくなる、つまり、そのアミノ酸が作れなくなってしまうのです。
ルル:そうなってしまうと、そのアミノ酸が植物の体の中からなくなってしまうのですか?
コロ:そのとおりです。そのアミノ酸がなくなると、たんぱく質が正常にできなくなり、そのために、植物が枯れてしまうのです。詳しく言うと、芳香族アミノ酸(チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン)を作るシキミ酸経路のうちの、5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(EPSPS)を止めてしまいます。
ルル:そんな大事な働きを止めてしまうようなものが人間の体の中に入ったら大変ではないですか?
コロ:植物はこれらのアミノ酸を自分で作ることができますが、人間も含め、動物は自分で作ることができず、栄養分として外から吸収してそれを利用しています。このように自分では作れないので栄養として摂らなくてはいけないアミノ酸を必須アミノ酸とよんでいます。人間ではこのシキミ酸経路を使ってできる芳香族アミノ酸の3つを含め、9種類のアミノ酸を必須アミノ酸として栄養分として食事から摂らなくてはならないのです。
ルル:ということは、人間はこの必須アミノ酸を作る代謝経路を持っていないということなのですね。玉転がしの列を持っていないのだったら、元々影響がないっていうことですね。だから、グリホサートがあっても、影響を受けることがない……というわけですか。ところで、この点では問題なくても、他の毒性とかがあるのではないのですか?
コロ:これはグリホサートに限らず、どの農薬でもそうですが、必要な毒性の試験をして、安全に使えるように決まりが作られています。グリホサートはグリシンとよばれるアミノ酸にリン酸が結合した構造をもっていて、その毒性もとても低いことが証明されています。それに、土に落ちたグリホサートは土の中にいる微生物によって分解されてしまいます。
ルル:それでは安心ですね。でも、なぜグリホサートが働くのかが良くわかりました。
コロ:それでは、次回は除草剤耐性遺伝子組換え作物では、どのようにしてグリホサートが効かなくなるのかを説明しましょう。
※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。