すかいらーくの何がいけないと私は考えたのか

前回、5月22日の記事に対して、問い合わせ、ご意見やお叱りをいくつかいただいているので、それについて説明したい。その前に、表現について2つの反省点があるので、それからお伝えしたい。この記事中、「できもしないことを言い出して人気取りに走る、無責任で恥ずべき行動だった」をはじめ、すかいらーくを批難する内容を書いたのだが、表現が断定的であったために、私の主観ではなく客観と受け取られたとすれば、これは本意ではない。この点、日本語としては「~だと思う」のように、私の見方であることがはっきりと分かるように書くべきだった。

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 また、「破廉恥」という表現を使ったのだが、これは書く仕事の先輩から「批難というよりも侮辱になりかねない」という指摘をいただいた。その意図は毛頭ないのだけれども、業として文章を書く人間が使うには慎重さを要する言葉であるのには違いない。この2点で、読者に誤解を与えたり、不快な思いをさせたりということがあれば申し訳ないことで、反省している。

 さて、読者からいただいた問い合わせで多かったのは、すかいらーくがとった行動がなぜ「できもしないことを言い出して人気取りに走る、無責任で恥ずべき行動だった」と言えるのかが分かりにくいというものだ。私がそう考えたのは、以下のことによる。

 (1)1月末にすかいらーくグループが中国製食品の使用を中止するという、新聞、テレビなどの報道があった。この段階では、「調査、検査のため」という説明や、中止の期限への言及、「いったん」といった表現がある記事等は見当たらない。また、同社Webサイトでも、それらについての説明は確認できない。そのため、一般の消費者や外食関係者には、中国製食品を使用しないことが、すかいらーくの新しい永続的な方針だと感じさせた可能性があると、私は見ている。

 (2)同時に、この段階の記事などでは、中止対象商品は、自主回収をすることになるなどの問題となった「天洋食品」「ジェイティフーズ」のものではないこと、すかいらーくが実際には自社商品の安全性に自信を持っていること、しかし消費者の不安感に配慮して中止することにしたこと、などが伝えられている。これは、消費者が不確かな情報から抱いた中国製品への不安や偏見を、すかいらーくが自ら信ずるところ(安全である)に反して是認したことに等しいと私は考えた。私はこれを、風評を先取りし、集客減を回避するために利用したのだと受け止めた。

 (3)外食のリーディング・カンパニーの一つが、このような行動をとったことで、“問題”は「天洋食品」「ジェイティフーズ」ではなく「中国」であることを多くの消費者に印象づけ、「中国産=危険」というイメージを広く世間に波及、強化させることを助長したと、私は考える。

 (4)約2週間後、すかいらーくグループは、安全性が確認されたとして中国製食品の販売を再開した。一般の消費や外食関係者が、すかいらーくグループが中国製食品の使用を中止したのは、継続的な方針ではなかったと気づいたのは、この段階でだったはずである。そこで、これは永続的に可能な施策でなかったために撤回したと受け止めたか、そもそも“一時的なキャンペーン”であったと見た消費者や外食関係者も多かったと、私は見ている。

 私は、チェーンストアが販売する商品は、PB(プライベート・ブランド)であろうとNB(ナショナル・ブランド)であろうと、「すかいらーくの商品」「セブン-イレブンの商品」「ユニクロの商品」というように、チェーンの名前と存在が、すべてを保証しているべきだと考えている。だから、今回の中国製冷凍ギョーザの中毒事件に際しては、例えば「これは『わが社のエビフライ』であって、『中国のエビフライ』というものではない」といった毅然としたところを見せて欲しかったというのが、すべてのチェーンに対する期待だった。ところが、(1)から(4)によって、ありていに言えば、私はすかいらーくの誇りを見失ってしまったのだ。

 書いてみればこれだけ長くなる説明を、前回の記事では数行で済ませてしまったのは、私なりにこの数カ月間に市場や業界の中で得てきた感触から十分と判断したためだが、いくつか問い合わせをいただいたということは、その判断は甘かったのだと言える。

 なお、「中国製冷凍ギョーザの中毒事件が起きるや、すかいらーくグループは一度、全店で「中国製食品の使用中止」をぶち上げた」との表現は、すかいらーくが「すべての中国製食品」の使用をとりやめた誤解を与えているという指摘もいただいた。実際には「一部の中国製加工食品」だということだ。

 このように振り返ると、この件には、今日の企業と消費者とのかかわり、情報の伝わり方(これにはもちろん、書き方という私が常に考え続けるべき事柄を含む)という点で、興味深い事柄がたくさん含まれているように思われる。今後は、すかいらーくへの取材も含めてさらによく調べ、有益なことがあればまたお伝えしていきたい。それに向けて、ご意見、ご感想、ご希望などあれば、ぜひお寄せいただきたい。

 また、今回の記事については、セブン-イレブンが「保存料・合成着色料ゼロ」を言い出したことを、私が肯定的に見ていることについて、さらに詳しく説明して欲しいというご要望もいただいた。同様の希望を持つ読者も多いことと思うので、これについては、回を改めて詳しく説明したい。

株式会社すかいらーくからの抗議について

「教育再生懇談会の“携帯禁止”を食産業は笑えるか」(2008年5月22日)に対しては、2008年5月30日付で株式会社すかいらーくより日経BP社「FoodScience」Webmaster宛の抗議文をいただきました。その後「すかいらーくの何がいけないと私は考えたのか」(2008年6月5日)で私の考えを述べましたが、同社より改めて同Webmasterに抗議の連絡を受け、当時「FoodScience」を所管していた「日経レストラン」編集長、「FoodScience」Webmaster、齋藤訓之の3名で株式会社すかいらーくをお訪ねしました。
抗議の要点は以下の4点です(いただいた抗議文の原文のままではありません)。

1.事実と異なる点

対象箇所:
「中国製冷凍ギョーザの中毒事件が起きるや、すかいらーくグループは一度、全店で『中国製食品の使用中止』をぶち上げた」

見解:
株式会社すかいらーくでは2008年1月31日に一部の中国製加工食品の使用を取りやめたが、それはあくまでも一部の食材でありすべての中国製食品ではない。

2.不適切な表現

対象箇所:
「理由は『消費者の不安感に配慮した』から。これはまさに、できもしないことを言い出して人気取りに走る、無責任で恥ずべき行動だった。しかも、これまで中国製食品の恩恵を受けていながら、看板を守るために切り捨てたり、風評被害を加速しかねない行為に出たことというのは破廉恥であり、教育上もよろしくない」

見解:
どこが「無責任で恥ずべき行為だった」かの根拠を示していただきたい。

対象箇所:
「できもしないことを言い出して人気取りに走る」

見解:
実際に、中国製食品を専門機関に自主検査に出し、再度安全を確認した後に使用を再開した。また、一部食材を中国産から国内産に移行することを実施した。これが「できもしないこと」と言えるか?

対象箇所:
「看板を守るために切り捨てたり、風評被害を加速しかねない行為に出たことというのは破廉恥であり、教育上もよろしくない」

見解:
株式会社すかいらーくを根拠なく誹謗中傷するものである。

3.発行責任について

Webmastaerは記事論旨を確認したのか。

筆者はこの記事に関して株式会社すかいらーくに直接取材をして事実確認をしていない。猛省を促す。

4.要求

抗議文に対してすみやかに見解と謝罪を求め、記事の訂正を求める。

 会見では重ねて抗議内容について説明があり、また、中国製冷凍ギョーザの中毒事件以降の当時の対応を企業としていかに重視していたか、そのためにたいへんな作業や連絡を行ったことなどについて説明を受けました。

 当方からは、主に6月5日の記事に記した見解を説明し、極端な表現についてお詫びをしました。

 そのほかにいくつかの意見交換を行い、また取材にはいつでも対応しているので、書くときにはくれぐれも確認してほしいと重ねて要望を受けました。

「FoodScience」ではその後もこの2本の記事掲載が続けられたため、同サイトの再録として同様に当サイトで公開するものですが、上記の通り、2本の記事そのままでは株式会社すかいらーくの抗議に対して応えられた内容ではありません。そのため、同社から抗議があったこととその内容ならびに当方でとった対応について合わせてお伝えするものです。

 株式会社すかいらーくからは、以降も取材に対応していただけると言っていただきましたが、これで同社あるいは関連産業全体から私が買った失望、損なった信頼を回復できたものとは考えていません。今後の取材・執筆活動を通じて、しかるべき評価をいただけるように精進していきたいと考えています。

齋藤訓之

※このコラムは「FoodScience」(日経BP社)で発表され、同サイト閉鎖後に筆者の了解を得て「FoodWatchJapan」で無償公開しているものです。

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About 齋藤訓之 398 Articles
Food Watch Japan編集長 さいとう・さとし 1988年中央大学卒業。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、農業技術通信社取締役「農業経営者」副編集長兼出版部長等を経て独立。2010年10月株式会社香雪社を設立。公益財団法人流通経済研究所特任研究員。戸板女子短期大学食物栄養科非常勤講師。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師。日本フードサービス学会、日本マーケティング学会会員。著書に「有機野菜はウソをつく」(SBクリエイティブ)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、共著・監修に「創発する営業」(上原征彦編著ほか、丸善出版)、「創発するマーケティング」(井関利明・上原征彦著ほか、日経BPコンサルティング)、「農業をはじめたい人の本―作物別にわかる就農完全ガイド」(監修、成美堂出版)など。※amazon著者ページ →