食を考える際に消費者のプレゼンスが重要になる一方、消費者の知識や判断力を引き上げることに企業や行政はなかなか積極的になれていません。そんな中、消費者とのコミュニケーション活動が評価され表彰されたという知らせが2つ舞い込みました。リスクコミュニケーションに携わる人にとって勇気となる出来事でした。
消費者とのコミュニケーション・逆風の中の朗報
消費者庁の食品表示一元化の検討も大詰めです。表示を考えるなら、市民が一緒に選べるような環境整備も推進すべき、つまり消費者教育も平行して進めましょうという意見はよく言われることです。
しかし、不景気になって行政や企業で予算の見直しが始まると、真っ先に切られるのは商品の宣伝ではない、考え方を伝えるような消費者とのコミュニケーションの費用です。企業は今日や明日の売り上げに貢献しない予算にはいい顔をせず、いいモノを作れば黙っていても売れるはずと言います。また、行政はコミュニケーションの効果を評価することは得手ではないので、積極的になれないものです。
今回は、このような中でも、消費者への情報提供や支援活動が評価され賞が与えられたことを、紹介したいと思います。
深川幸子さんの消費者支援賞・内閣府特命担当大臣表彰
一つは、深川幸子さん(元花王、日本ヒーブ協議会特別会員)が消費者支援賞・内閣府特命担当大臣表彰を受賞されたことです。同賞は、消費者利益・擁護、増進を図ることを目的として消費者支援活動が顕著だった人や団体に与えられます。
深川さんは日本ヒーブ協議会のメンバーとしては、消費者相談現場の事例の情報カード編集チームのアドバイザーを務め、同協会20周年記念行事における企業と消費者のギャップに焦点を当てたパネルディスカッションの企画とパネラーを担当するなどの活動をしてきました。一方、花王では、機能性食品をめぐる栄養師・保健師を対象とした情報提供、エコナの製造・販売自粛への経緯などを説明した報告書「エコナの食の安全・コミュニケーション」の企画・作成に関わってきました。
ことに「エコナの食の安全・コミュニケーション」は、自らに厳しく、悩みながら、謙虚に幅広い分野の方々の助言を受け入れた力作で、リスクコミュニケーションとは何かを考えるときに、私たちにとって学びの多いものであると思います。
上野製薬の消費者教育教材表彰優秀賞受賞
もう一つは、上野製薬が作成した「みんなでおいしく食べたい!~保存料メーカーが説明します」(紹介ページ:http://www.ueno-fc.co.jp/foodsafety/pamphlet/pamphlet.html)が、消費者教育教材表彰優秀賞を受賞したことです。消費者教育支援センターは、単なる情報提供でなく、教育の意図が感じられる、独創性がある教材で、考えさせる内容で授業が楽しくなるような教材を表彰しています。同社は、食品添加物の保存料を製造・販売している会社で、その役割を正しく伝えるために、広報活動を行ったり、関係する事柄について調査・研究を行っています。
保存料と言うと、新鮮でなくなった食材を無理に利用するのを助けるもので普通に調理していれば不要と思っている人がいますが、被災地におにぎりを配ったり、食中毒を抑えたりするのに、保存料は大きく貢献しています。
このパンフレットには、保存料の意義を伝えたいという専門家の思いが込められています。中でも、保存料なしに食品中で増殖する細菌数を示すグラフで、細菌が増えるにつれて笑っているところなど、伝える力を持つ教材であると感じました。
今回の両受賞は、効果の現れにくい消費者とのコミュニケーション活動をする人への励ましとなります。また、このような活動を、勇気を持って真っ直ぐに進めることはとても意義のあることだと感じさせる出来事であったと思います。
「消費者教育と言うのは簡単だが、実施は難しい」と言って手を付けないのではなく、今あるよい教材の紹介や消費者支援活動に光を当てるなどは、特別な予算がなくてもできることです。このようなところから、まずは手をつけることが大切だと思います。