2011年12月、シンポジウム「有機農業と遺伝子組換え作物~将来の90億人を養うために今考えること」が開催された。出席したNPOくらしとバイオプラザ21の佐々義子氏に、その報告を記してもらった。植物の医療分野での利用の研究について。
安全性・効果の試験には野外栽培が必要
「植物による医療用タンパク質生産」
増村威宏氏(京都府立大学生命環境科学研究科)
この分野の概況
当初は、牛丼ライス(牛丼を食べたのと同じような栄養価を持つ米)を作ろうとしていたが、日本では遺伝子組換え米に対する受容が低く、今のところ米を使った医薬品づくりを試みている。
タミフルの成分であるシキミ酸は八角という植物(トウシキ)から抽出され利用されていたが、今は合成されるようになっている。メントール、カフェイン、コルヒチンなども、初めは植物から抽出され利用された。
遺伝子組換え技術を用い、インシュリン、成長ホルモン、インターフェロン、エリスロポエチンが大腸菌、培養細胞により製造されている。また、研究用試薬や酵素(遺伝子組換え大腸菌由来の耐熱性ポリメラーゼなど)も作られている。
遺伝子組換え植物の例では、花粉症緩和米、経口ワクチン、ラクトフェリンを含むイチゴ、インターフェロンを作るタバコなどがある。
「悪魔の種子」という推理小説でも扱われているように、遺伝子組換え技術を利用した医薬品作りは、新しいビジネスとしても期待されている。
スギ花粉症緩和米は、エピトープ(アレルギーを起こすタンパク質の一部)を含む米を食品として食べ続けているうちに花粉症が治るように作られたもの。遺伝子組換え作物の野外栽培の反対運動が起きると大量に生産出来ないので、安全性や効果を調べる試験がなかなか進まない。
医薬品を植物工場で作る研究が進められている。植物を利用して高い付加価値の物質製造基盤技術開発が2006年から2010年、経済産業省のプロジェクトとして行われた。
・コレラワクチン生産イネ(日本製紙)
・イヌインターフェロンを含むイチゴ
・インフルエンザワクチンジャガイモ(経口投与)
など
植物で作るメリットは、①野外だと安価、②病原体の混入やウイルス混入の心配がない、③タンパク質を特定の場所に蓄積させられる(プロテインボディの利用)
私の研究
米には7%のタンパク質があるので、2種類のプロティンボディ(PB)に有用タンパク質を蓄積させたり、回収したりする利用が考えられる。
内在性タンパク質(グルテリン、プロラミン)の合成蓄積を抑制すれば、効率的に目的の有用タンパクを蓄積させられる。それには、RNA干渉(RNAi)技術を利用する
ヒト成長ホルモンを作らせたら、プロテインボディII(PB-II)に蓄積していた。
注射によるワクチン接種は、痛いし、針や医師が必要。経口ワクチンを小腸上部まで届けるようにしたい。イネのPBにカプセルの役目をやらせる。イネのPBにコレラ毒素Bサブユニット(CTB/サブユニットは分離できるタンパク質を構成する一つひとつのタンパク質)を作らせた。
ネズミやサルの免疫応答にかかわる細胞にCTBが届き、コレラ毒を投与しても下痢を抑えることができた。今は豚で実験中。
グルテリンを蓄積するPB-IIは胃で消化されてしまうが、PB-I(プロラミン)は小腸に届くので、PB-Iだけで発現させたい。緑色蛍光タンパク質を使って制御機構を調べて、改善し、胃のペプシンで負けないようにしたい。
小型の水耕栽培で試験的にイネを栽培し、CTBを含む米粉末をカプセル封入して実験を進める予定。
質疑応答
Q 米よりダイズの方がタンパク質が多く出来るのに、なぜ、イネを使うのか。
A イネの知見が多く蓄積されている。ダイズの研究者が日本にあまりいない。ダイズは内在性タンパクが多くて、外来タンパクを作る余地があまりない。ダイズの研究が進むとダイズが使われるようになる可能性はある。