中国では、旧暦(農暦)に基づく行事がいくつかあるが、昨年紹介した中秋節(本連載第19回参照)に並んで大きなものが、新年を祝う春節(旧正月)である。
今年の春節は2021年は2月12日である。春節は前日から休みになり、計7日間の連休になる。この時期、帰省ラッシュが起きる。その際の移動人数は例年なんと約30憶人に及ぶという(コロナ禍以前の2019年には「29億9000万人に上る見通し」と報じられた。/CNN「中国で春節の帰省ラッシュ始まる 約30億人が移動」)。
なお、韓国、台湾、ベトナム、シンガポールなどでも、正月と言えば旧暦(太陰太陽暦)に基づく旧正月を祝うことが一般的である。
ただ、海外の影響を受けて、最近は新暦と旧暦の2回お祝いするケースが少しずつ増えているという。
春節の過ごし方
春節前には大掃除を行い、新年のための飾りつけを行う。一般的な飾りつけは赤色の燈籠や提灯、逆さにした「福」の文字(倒福)である。一組の対句を2枚の紙に記した「対聯」(ついれん)を門や戸口の左右に貼ることも多い。また、南方の広州では金柑の鉢を飾る。
春節前夜は、多くの家族が中国中央電視台(CCTV)の「春節聯歓晩会」を楽しむ。これは歌謡、演劇、演芸など盛りだくさんの新年カウントダウンイベント番組で、日本で「NHK紅白歌合戦」を楽しむのとよく似ている。
年越しに鳴り響くのは、爆竹や花火である。市街地では環境対策のため禁止されているが、地方ではしっかりと健在である。日本の除夜の鐘が騒音公害との苦情により取り止めるところがあると聞く。古くからの習慣が現状にそぐわなくなっていることは共通しているようだ。
年が明けると、親戚やご近所に挨拶をしに出向く。子どもたちが楽しみにしているのは圧歳銭と呼ばれるお年玉である。また、日本の年賀状ほど盛んではないが、年始の挨拶に手紙を送る習慣もある。これに使う年賀カードは赤や金の箔押しで扇や金魚などの吉祥図案(縁起物の図柄)を描いた派手なものである。
一方、近年は春節に家族で海外旅行に行くケースが増加している。行き先として人気があるのはタイや日本、シンガポールなどである。多くの中国の人々が安全に訪日できる状態に戻る日が来ることを祈っている。
春節の料理
日本では大晦日に年越しそばを食べるが、中国の春節前夜の夕食には魚料理が欠かせない。「毎年よい収穫がある」の意味の「年年有余」(ニアンニアンヨォユイ/nián nián yǒu yú)を同じ読み方の「年年有魚」にかけたものである。日本のおせち料理のそれぞれに縁起のよい語呂合わせがあるのとよく似た感覚と言える。
春節によく食べられる料理としては、正月餅の年糕(ニェンガオ)や春巻(チュンヂュアン)が挙げられる。広く食べられているが、味付けや料理方法は各地で違いがあるといった事情は、日本のお雑煮と同じである。米を栽培する南方では、ゴマやピーナッツなどが入った白玉団子である湯圓(タンユェン)入りスープが食べられる。
小麦を栽培する北方では何と言っても餃子である。中国の餃子はいわゆる水餃子で、日常的に食べられているものではあるが、春節にはなくてはならない料理となる。半月状に包んだ後で両端をくっつけてカップ状にする元宝包みがよく行われる。これは中国の昔のお金の元宝(銀錠)の形状が起源とされている。食べる時に注意が必要だが、コインを入れたものを作って金運を占うことも行われる。餃子は春節前日から食べる地域もあるという。
ほかに、臘肉(ラーロウ)という食材も人気が高い。見た目はベーコンによく似ているが、豚肉や羊肉にたれや香辛料で味付けして乾燥または燻製にした干し肉だ。市販品もあるが、昔ながらの方法で手作りする家庭も多いという。薄切りの野菜と炒めるとおいしいという。