新型コロナが世界を一変させた。日本でもリモートワークが一般的になり、東京都は転出超過が継続している。
国際社会で存在感を示していた安倍首相は「アベノマスク」に象徴されるように失策が続き、健康を損ない辞任した。安倍政治の継承をうたった菅首相だが、新型コロナ失策も継承しているように見える。経済は重要だが、社会が落ち着いてからの方がよい。日本は新型コロナの混乱はあるものの、欧米に比べ安定している。デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れを取り戻し、成長戦略を描いてほしい。
コロナ禍がなければ、米国の大統領にトランプ氏が選出されたに違いない。バイデン新大統領は多国間の協調を目指すだろう。環境対策など世界にとってよいことだと考える。日本も積極的に協力したい。
これらを念頭に、2020年の食関連のニュースを振り返る。
ビジネスモデル再構築が迫られるコンビニエンスストア
昨年末、コンビニの店舗数はすでに前年を下回っている。そして、コロナ禍による生活スタイルの変化はスーパーに軍配を上げた。
冷凍食品を強化した「セブン-イレブン」は比較的傷が浅いが、コンビニ各社の売上は昨年をかなり下回った。公取委は24時間営業の強制が独禁法違反になることを示し、弁当の値引き販売の妨害も排除した。
本部の支配力が弱まっている。「ミニストップ」はこれまでのロイヤリティモデルのフランチャイズ契約を見直し、事業利益分配モデル」に変更することを発表し、来年9月から運用開始の予定だ。
飲食店倒産が過去最多を更新
昨年、飲食店倒産が過去最多になった。人手不足、従業員の高齢化、キャッシュレス対応、喫煙対策などの課題が山積していたためである。
何とか頑張っていたところをコロナ禍が襲い、力尽きた店舗が相次いだ。関係者の方々の無念の気持ちを察したい。
営業を続けていても、次の課題解決の期限は迫っている。2021年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者がHACCPに沿った衛生管理をしなければならない(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html)。今年を乗り切った飲食店のうち、このための改善を行う余裕があるところはどれだけあるだろうか。
とは言え、新型コロナ対策として行って来た手洗いや拭き上げの強化等により、飲食店の店内の衛生状態は向上しただろう。そして、HACCP対応を指導するはずの保健所も、新型コロナへの対応で手一杯である。
環境対策は一歩前進
プラスチック対策として、レジ袋が有料化され、シュリンクラベルなし飲料も増えた。包装を紙に変更した菓子類も登場。政府は大規模事業者のプラごみリサイクル義務化方針を決定。菅首相は2050年までにCO2排出をゼロにすることを宣言した。自然エネルギーの活用やCO2固定技術も進められ、水素活用にも拍車がかかる。
新技術開発は新型コロナ後の経済発展のエンジンとして期待される。それでも、原子力発電が欠かせないと筆者は考えている。安全が確認されたものから順次稼働させたい。
フードテックじわり拡大
食×テクノロジーがフードテックである。守備範囲はずいぶん広い。大別すると、1.食糧増産、2.飢餓対策、3.ベジタリアン対応、4.食品安全、5.人材不足解消になるだろう
本年、目立ったのは植物由来の人工肉である。外食メニューで普通の存在になり、スーパーの棚の幅も広がった。筆者が注目しているのは昆虫のコオロギである。高タンパク質で、おいしいのだ。普及に向け、大量養殖やアレルギーなどの研究が進められている。
食品表示は悩ましい
4月から新しい食品表示に混乱なく移行した。今後の課題は分別流通の大豆に関わる遺伝子組換え表示のあり方だ。現行制度では分別生産流通管理(IPハンドリング)をして、遺伝子組換え作物の混入が5%以下であれば「遺伝子組換えでない」と表示できるが、2023年4月1日施行の新制度では「混入がないと認められる」のでなければ、「遺伝子組換えでない」と表示できなくなる。
味噌業界や納豆業界では対応の検討を始めているが、スッキリした案は出ていない。
また、原料原産地表示(原原表示)の義務化も、経過措置の終了が2022年3月までと迫っている。
また、消費者庁は「食品添加物不使用」「無添加」表示等に関するガイドライン策定に向けた検討を実施予定としている。
飲食店は一般に食品表示のルールが適用されないが、小売商品と同様の対応を促したい。
なお、「無添加」表示についての行政の動きとの関係は不明だが、「くら寿司」はグローバルロゴを刷新し、「無添」を外した。
手造り挑戦はよいことだ
自由時間が増えたため、野菜栽培や加工食品の自作、料理を始める人が増加した。いずれも頭を使い工夫することが多く、好ましい趣味と言える。
筆者は以前からベランダ菜園を楽しんできた。また、本年は食品乾燥機とヨーグルト・メーカーを購入した。前者でカラカラに乾燥した本シシャモを作り、濃厚な味と食感を楽しんだ。後者は未使用だが、ヨーグルトだけでなく、納豆も作るつもりである。
内食・中食の増加
外出自粛により、内食・中食が大幅に増加するなかで、袋麺やカップ麺、そしてパン用の強力小麦粉は品薄の状態が継続した。また、冷凍やレトルト食品も売上を伸ばしている。
テイクアウトやフード・デリバリーの需要も伸びている。後者は群雄割拠で競争が激化している。早く届ける必要があるが、自転車で高速道路に侵入してはいけない。
外国人労働者の重要性再認識
従来から指摘されてきたが、外国人労働者の重要性が再認識された年であった。レタス農家では働き手不足に陥った。それをカバーしたのが、たとえば客の途絶えた近隣ホテルの従業員であった。新しい仕事は社会に役立っただけでなく、個人が得たものも多かったに違いない。
外国人代替ではないが、出向が増えているのがキャビン・アテンダントである。とくに手を広げていたANAで目立つ。接客と安全の技能を身につけ、英語も堪能なので、出向先でも重宝されるだろう。
ネットスーパー売上急増
ネットスーパーは各社とも売上が急増している。
注目はイトーヨーカドーである。そもそもはこの分野の先駆者だったが、コンペティターが増えて売上が低迷していた。しかし、新システムの導入により、巻返しを図っている。たとえば、作りたい料理のレシピから必要な食材を自動で選択できるのだ。これで注文に必要な時間が半分以下で済むという。
他社も工夫を進めており、消費者にとって、より便利になってほしい。
ゲノム編集食品やっと1件
もっと早く市場に登場すると思っていたが、年末にゲノム編集のトマト(高GABA含有)がゲノム編集食品として国内で初めて流通が認められた。今後、本技術は農業や漁業における活用が期待されている。
一方、遺伝子組換えとの違いを理解している消費者は多いとは言えない。これらに反対することを生業とする向きは今後も不安をあおるに違いない。丁寧なリスクコミュニケーションを継続する必要がある。また、ゲノム編集食品であることを積極的にうたって販売したいものだ。