2020年に発行した「食品安全情報(化学物質)」を振り返って、大きなニュースと言えば、何と言ってもCOVID-19関連でしょう。もう一つが、米国食品医薬品局(FDA)の今後10年の作業計画「よりスマートな食品安全の新時代(New Era of Smarter Food Safety)」の青写真の発表です。
来年は、英国がEU離脱後の移行期間を終えた後に食品安全政策をどのように変えていくのか注目します。
(国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室 畝山智香子・登田美桜)
- 食品安全情報
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(食品の安全性に関する国際機関や各国公的機関等の最新情報を紹介しています) - 「食品安全情報(化学物質)」の注目記事一覧
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(毎号、重要だと思われる記事や興味深い記事を注目記事として紹介しています)
COVID-19関連
2020年は、食品安全の分野でも諸外国から発信されるニュースの大半はCOVID-19関連でした。以下、それらを簡単にまとめてみました。
食料安全保障への対策:移動制限やロックダウンにより食品の輸出入や国内流通が混乱したことから、多くの国で食品サプライチェーンを維持するための対策が優先事項になりました。世界的には途上国や貧困地域への影響が計り知れないとして、FAOが中心となって国際的な協力を何度も呼び掛けています。
消費者の不安への対応:食品やその容器・包装を介してCOVID-19が伝播するのではないかという消費者の不安に対して、WHOや各国政府が、そのような根拠はなく、通常の食品衛生管理を行うことが重要であると説明しています。
詐欺製品への注意喚起:科学的根拠もなく、金儲けのために、COVID-19の予防や治療ができるというウソの宣伝でさまざまな製品(サプリメント、ハーブ製品、エッセンシャルオイル、静注用製品、消毒剤など)が販売されているため、各国政府が注意喚起や販売業者への警告を行っています。中には、健康に有害な成分が製品に含まれている場合さえあります。
各国政府が消費者向けに発表した、詐欺製品に騙されないためのコツが参考になるので、いくつか紹介しておきます。
規制手続きのデジタル化:規制当局への各種登録申請、食品施設の査察や証明書発行などの手続きのデジタル化が一気に進みました。「デジタル化」は、COVID-19の影響による変革を示す2020年のトップキーワードだと思います。
また米国では、一時的ですが、レストランやホテルなどの営業の縮小や停止を受けて、業務用食材の小売りへの転用や、テイクアウトなどの提供方法への変更にともなう規制緩和なども行われています。
国際会議の延期やバーチャル会合:COVID-19が世界的なパンデミックになった3月以降、予定されていたコーデックス委員会の個別部会や国際的な専門家会合は延期を余儀なくされました。ただ、いつまでも立ち止まっているわけにはいかず、徐々にバーチャル形式での会合が開催されつつあります。コーデックス委員会の総会はFAO/WHO 本部の所在地(ローマとジュネーブ)で開催するという決まりがありますが、今年はメンバー国の承認のもと、9〜10月に初めてバーチャル形式で開催されました。
消毒剤への注意喚起:COVID-19対策として、ハンドサニタイザーなどの消毒剤を店舗や公共施設などいたるところで見かけるようになり、それに関係した事故への注意喚起が出されています。
まず海外では粗悪品が問題になっています。とくに原料として正規のエタノールではなく、使用が認められていないメタノールを含む製品が出回り、それらの粗悪品を飲んだことによる中毒が多数報告されています。メタノールを飲むと、体内代謝物のギ酸による毒性のため、嘔吐や腹痛などの消化器症状や、視覚異常や失明、痙攣発作などの神経症状などを生じて、重症の場合は命にかかわることもあります。その他にフランスでは、ハンドサニタイザーのボトルが設置される高さがちょうど子供の目の高さと同じであるため、子供が誤って中身のアルコール溶液を眼に吹きかけてしまう事故が多数発生しているとして注意が呼び掛けられています。
米国食品医薬品局(FDA)の「よりスマートな食品安全の新時代(New Era of Smarter Food Safety)」の青写真
世界の食品安全分野を先導する米国FDAの将来構想を示したものです。この青写真には4つのコアエレメントが提示されていて、食品安全近代化法(FSMA)の理念である「科学とリスクに基づく予防」の実現のために、時代の変化に合わせて、現代の技術やツールを最大限に活用して食品安全への取り組みを向上させようという革新的な内容になっています。
トレーサビリティの強化、予防のためのビッグデータ解析や人工知能(AI)の活用、電子商取引やデリバリーなどの新しいビジネスモデルへの対応、ゲノム編集などを利用した新規食品の開発推進と安全性確保、食品安全文化の推奨など、米国に限らず、各国の食品安全行政にとっても今後向かうべき方向が示されているように感じています。
詳細については、下記を参照していただけましたら幸いです。
- 食品安全情報(化学物質)No. 18/ 2020(2020. 09. 02)別添
【FDA】よりスマートな食品安全の新時代:FAQ - http://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2020/foodinfo202018ca.pdf