今日、香港の対日プロモーション事業「Think Global, Think Hong Kong」がホテルニューオータニ東京で開催される。それにちなみ、今年8月に開催された「第29回 フード・エキスポ」(香港コンベンション&エキシビション・センター)を振り返りながら、香港の食市場での日本の可能性を考えてみたい。
日本びいきで世界への窓
まず、農業を含む日本の食産業が香港市場を狙うメリットを整理しよう。
第一には、日本の農林水産物の輸出額のうち対香港輸出がすでにおよそ25%を占めているという実績が挙げられる。これは香港側でも日本の産品を重視している表れであり、参入のための道筋がついているということでもある。
これには、香港には日本に関心を持っている消費者が多いという背景がある。しかも、中国本土からの流入もあって、現在人口は増加中である。
そして、香港は中国本土とASEANに対しての情報発信地であり、同時に商業・物流の拠点でもある。したがって、香港市場での成功は、その先の中国本土やASEANでの展開でも有利に働くことになる。
では、香港に対して、日本からどのような商品・サービスを提供するのがよいのだろうか。
気候風土よりも技術と信頼感
昨今の日本では“日本礼賛”が過熱しており、日本産なら何でも受け容れられると考える風潮が蔓延しているが、娯楽としてはさておき、もちろん実業の中ではそこは割り引いて冷静に見るべきだ。
まず、農産物でも加工した食品でも、一般に日本でしか作られていない種類のものはないということは改めて押さえておきたい。たとえば果物ではリンゴ、イチゴ、ブドウ、ナシなどは日本産のものが売れているとされる。しかし、現地のスーパーの店頭では韓国産や中国本土産も幅を利かせている。
それでも、香港人は「日本産は芸術品で別格」などと話すことがあるので、日本人はついそれに安心してしまうのだが、しかし実際には韓国産や中国産の評価も上がってきている。それらの中には日本の品種が使われているもの、著作権等の権利上問題のタネとなるものも含まれるが、法的解決は別途考えるとして、過去の栄光にあぐらをかけばいつでも足下をすくわれる現実は押さえておきたい。そして、こうしたコンペティターが登場せずとも、ほとんどの人気商品はやがて陳腐化するものである。
さて、厳しい話から始めているが、これの裏を考えたい。世界にすでにあるものの何かを取り上げて磨き上げること、新しい価値の提案、品質と効率を向上するカイゼン、これらは日本の産業界のお家芸である。香港に対する食ビジネスでもそこを狙っていくことが“日本産”の価値になっていく。
たとえば、今回香港の「セブン-イレブン」で見つけたサンドイッチにはちょっと驚かされた。パッケージでアピールしているのは「日本で製粉した小麦粉を100%使用」ということなのだ。「日本産の小麦」というのではなく、「日本での製粉」である。これには、香港市場が“日本産”に期待するものが、気候風土だけでなく、日本の技術や信頼感も小さくないということが表れている。
Yata Ltd. CEO Susanna Wongへのインタビューでも、日本産であれば売れる段階は過ぎているという指摘があった。香港人が求めているものはあくまでも高品質なもの、得をするもの、人気のあるものであり、それが今たまたま日本産であるというぐらいに考えたい。しかし、それを理解した上で挑戦し続けることを香港市場は評価するはずなのだ。