以前、セイコーマートの丸谷智保社長にお話をうかがったとき、同社で統計を活用している例として世代ごとのワインの売れ筋傾向について説明してくださいました。
セイコーマートはもともと酒類にも強いチェーンですが、ワインのラインアップにも力を入れています。一方、クラブカード(ポイントカード)の普及率は高く、どんなプロフィールの人たちがどんなものを買っているのかを把握するのに役立っています。
そこからわかるワインの好みの傾向というのが面白いものでした。まず、60代以上の人たちの多くはフランス産のスティルワインを選ぶということです。一方、50代から下の世代では、いわゆる「泡」、圧倒的にスパークリングに人気があるということです。
その心は? 丸谷社長の分析は、「コカ・コーラなど炭酸飲料に慣れ親しんで育った人たちだから」というものでした。
日本でコカ・コーラが製造されたのは1957年ですが、自動販売機(当時は瓶入りでした)が導入されテレビCMも始まったのはその5年後で、本格的に普及し出したのは前の東京オリンピックの頃からと言われています。
その頃小学生だった人たちが、今の50代ということになります。その人たちにとっては、お店に行ったらすでに売っていた飲み物となるでしょう。一方、これより上の世代では、コカ・コーラはそれぞれの嗜好がある程度出来た後に来た飲み物ということになるでしょう。その人たちが親しみを感じる飲み物は、お茶や麦茶や、あるいはカルピスなどかもしれません。
もっとも、それ以前の日本にも炭酸飲料はありました。ラムネやサイダーです。しかし、これらは各地域ごとの中小の飲料店が作るのが普通で、コカ・コーラのような大資本による大々的なマーケティングは行われていませんでした。多くの人に毎日飲まれるようではなく、お祭りやイベントの楽しみという人が多かったはずです。
そして、今日の“泡ファン”は、実はもっと以前から“泡ファン”でした。東京オリンピック前後に小学生だった人たちは1980年前後に大学生になっています。彼らが主役となったのが、“酎ハイブーム”です。
幼い頃に出来た嗜好はその人のその後の生活を左右するほど、いいえ、市場そのものを左右するほどに強いものだと改めて感じます。
長く続くビジネスを考えるなら、子供に好かれなければいけないと言います。コカ・コーラしかり、マクドナルドしかり、また多くの食品メーカーの戦略もまたしかり。こういう例を挙げると、「アメリカの陰謀だ」と言う人がいますが、日本にも昔からそういう知恵はありました。地域で長く繁盛している食堂や商店に取材すると、地域の子供を大事にしている話はよく出てきます。また、江戸時代からある「富山の薬売り」が紙風船を配っていたのも、かわいいファンを育てるためだったのでしょう。
半面、それほど重大な影響を持つものだけに、子供たちには一生利用を続けても問題を起こさないようなものをよく考えて与えたいものです。人を幸せにすることから発想することが、本当に長く続く商業でしょう。
※このコラムはメールマガジンで公開したものです。