2015年4月10日、茅場町サン茶房でバイオカフェ(※)「熟成肉の豆知識」を行いました。スピーカーは食品安全研究センター長 中島英和さんでした。
このレポートはくらしとバイオプラザ21のホームページ(http://www.life-bio.or.jp/)でご覧いただくとして、ここでは私の感想と考えたことを記します。
家畜生産現場から食卓まで
牛や豚は、仔を取るだけの繁殖農家、仔を買ってきて肥育する肥育農家、それらをトータルに行う農家など、いろいろな形で生産されています。そして食肉センターに搬入され、獣医による生体検査があり、合格すると屠畜されます。そして放血して、頭部、脚、皮が取り除かれたものが枝肉です。ここでたとえば750kg程度の牛の場合、400kg程度の重さになります。それから、血液検査、頭部検査などのいろいろな検査が行われます。これらに合格すると部分肉に分ける作業が進められ、私たちが購入する精肉になっていきます。
解体は重労働ではありますが、解剖学的な知識を利用して高い技術を持って行われるので、熟練した人はそんなに力を使わずにできるようになるそうです。
また、現在、せりにかける前には、東京都中央卸売市場食肉市場・芝浦と場では放射性物質の全頭検査を行っています。
家畜を育てるところから、食卓までは、家畜伝染病予防法、飼料安全法、と畜場法、食品衛生法と段階ごとに法律で規制されています。そして、すべての段階が牛肉トレーサビリティ制度でカバーされているので、パック入りの精肉になっても、その牛の生まれた場所までたどることができるようになっています。
ここまでの知識はこのバイオカフェで教わったことの受け売りです。ですから、食肉が食卓に届くまでのことを本当に知らないと実感したバイオカフェでした。
食肉生産の流れはブラックボックス
食肉は、野菜や魚介類とは異なる点が多い食品です。野菜なら家庭菜園で栽培することもできるし、鑑定してもらえば一般の人でもキノコ狩りに行くことができます。魚釣りをする人なら、自分で釣り、それを自宅でさばくこともするでしょう。
けれども、食用目的で牛や豚を一般の人が飼う事はまずできませんし、屠畜となるとほとんど不可能です。屠畜場で行われている安全管理、衛生管理ができませんし、法律的にも屠畜場以外で屠畜することはできません。それを解体して精肉にすることも、プロでなければできないことです。
もちろん、家庭菜園で農家の実情がすべて理解できるわけではありませんが、逆に難しさを知る機会にもなるでしょう。魚介も、獲れたときやさばくときの様子は、多くの人がある程度わかっています。漁の様子を伝えるテレビ番組はよくありますし、魚市場に行ったことがある人もいるでしょう。
ところが、食肉の場合、ほとんどの消費者にとってそれは、突然、精肉や部分肉(お肉屋さんでさらしに巻いてある肉の塊が部分肉です)となってお肉屋さんのショーケースに並ぶもの、あるいはパック詰めになってスーパーマーケットの店頭に並ぶものです。生きた牛や豚までは見たことがあっても、それから精肉になるまでの間は全くのブラックボックスです。
食のリスクコミュニケーションについて話し合っているとき、生産現場と食卓の乖離が食への理解を妨げているという話がよく出てきます。科学的に説明されても、現実がイメージできなければなかなか腑に落ちないものでしょう。そういう意味で食肉における“ブラックボックス度”と言いますか、食肉の生産プロセスと食卓の乖離度は、食品の中でも最も高いように思われます。
これはFoodWatchJapan読者の多くの方々も感じておられることだと思います。
屠畜を含む食肉が食卓に届くまでについて知りたいと思っても、安全と衛生の問題に加えて、歴史的な経緯など、私たちの社会が超えなければならない問題が壁となっていると聞きます。
しかし、食肉業界が情報公開に消極的だということはありません。今回は、東京都中央卸売市場食肉市場・芝浦と場にある「お肉の情報館」のことをご案内したいと思います。ここでは食肉生産について、相当に詳しいことまでわかる展示が行われています。
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/syokuniku/rekisi_keihatu_03_01.html
これからも知らないことを知って、考え、みなさんと共有していきたいと思っています。
※くらしとバイオプラザ21のサイエンスカフェは定期的に開催されています。詳しくはこちらをご覧ください。
http://www.life-bio.or.jp/biocafe/