今回は現在公開中の映画「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」に登場するフードトラックのメニューとレシピをご紹介する。
アメリカはフードトラックブーム
フードトラックとは、トラックの荷台にキッチンを搭載した移動販売車のことで、ここ数年アメリカ西海岸でブームとなっているという。ホットドッグやハンバーガー、タコスといった従来のファストフードとは一線を画した、高級食材を使用したメニューが低価格で食べられるのが人気の要因という。
本作もそうしたブームを反映し、高級レストランをクビになったシェフがその腕を活かしてフードトラックでこだわりの料理を提供し、再起を図るストーリーになっている。
知らなかったでは済まされないネットの怖さ
本作は、料理ドラマであると同時に現代のネット文化に対する風刺にもなっている。主人公のカール・キャスパー(ジョン・ファブロー)は、ロサンゼルスの三つ星レストラン「ゴロワーズ」の人気シェフ。彼は、料理評論家のラムジー・ミシェル(オリヴァー・プラット)の来店予約が入ったことから特別メニューを出そうとするが、オーナーのリーヴァ(ダスティン・ホフマン)の命令で5年間変わりばえのしない定番メニューを出さざるを得なかった。
ミシェルのブログでその料理を酷評されたカールだったが、ネットには全くの無知で、ブログにリンクしたTwitterで悪評が拡散しているのを知る由もなかった。彼がそれを聞かされたのは、離婚した妻イネズ(ソフィア・ベルガラ)と暮らす10歳の息子パーシー(エムジェイ・アンソニー)からだった。
激怒した彼は、Twitterのメッセージがフォロワーでない不特定多数に公開されてしまうとも知らず、メール感覚でミシェルを口汚く罵るメッセージを送ってしまう。エスカレートする2人の応酬はネット上で大きな反響を呼び、リターンマッチが決まった「ゴロワーズ」は予約で満席になる。
カールは今度こそ一世一代の料理を作るのだと張り切るが、またしてもリーヴァの横槍が入り、彼に従わないカールは解雇されてしまう。さらに悪いことに、料理対決が不戦敗の形になったカールが腹の虫が治まらずに店に乗り込んでミシェルに襲いかかったところを野次馬たちにスマホのカメラで撮られてしまい、その動画がYouTubeにアップされてしまうという、絵に描いたような炎上パターンに陥ってしまうのである。
これは、端末を通して全世界とつながってしまうインターネットの使い方を誤ると、とんでもないバッシングに遭ってしまう恐ろしさを表している。
ネットの借りはネットで返す
名声が地に堕ち、すべてを失ったカールに手を差し伸べたのは、元妻のイネズだった。もともとはフロリダ州マイアミのフードトラックで料理の腕を磨き、一流シェフに上りつめた彼に、彼女は原点に戻って出直すことを薦める。
カールは息子のパーシーとマイアミに飛び、実業家であるイネズの前夫(カールと離婚した後の再婚相手)のマーヴィン(ロバート・ダウニー・Jr. )から中古のフードトラックを譲り受ける。そして「ゴロワーズ」で部下だったヒスパニック系の部下マーティン(ジョン・レグイサモ)と合流し、フードトラックの改装と、看板メニューとなるマイアミ名物のキューバサンドイッチの準備に取りかかる。
キューバサンドイッチは、その名の通りマイアミの南に浮かぶキューバを発祥の地としたサンドイッチで、マイアミに渡ったキューバ移民向けに地元の食堂が出して広まった。家庭で再現した場合のレシピは以下のようなものである。なお、劇中では業務用の調理器具で作る(下記レシピの3の工程は劇中では両面鉄板を使う)ため製法は若干異なる。
キューバサンドイッチ
- 【材料】(2本分)
- 約15cmのバゲットまたはドッグパン……2個
- ロースハム……4枚
- スライスチーズ……2枚
- キュウリのピクルスのうす切り……4枚
- バター……適量
- フレンチマスタード……適量
-
- 《ローストポーク》
- 豚肉ロースブロック……約400g
- ローズマリー……2~3本
- タイム……2~3本
- にんにくのうす切り……1片
- 塩……小さじ1
- 粗引きこしょう……小さじ1
- オリーブオイル……大さじ2
- 【作り方】
- 1. ローストポークを作る。豚肉はナイフで数カ所穴を開け、半分に切ったローズマリーとタイム、にんにくを刺して、塩、こしょう、オリーブオイルを順にからめる。オーブン用シートを敷いた天板にのせ、180℃のオーブンで30~40分焼く。粗熱を取り、5mmほどのうす切りにする。
- 2. パンは厚みが半々になるように上下にカットし、切り口にマスタードを薄く塗る。仕上がり1本に対して、ロースハム2枚、ローストポーク2枚、チーズ1枚、ピクルス2枚を順に載せて挟む。
- 3. フライパンにバターを熱して溶かし、2を並べてフライ返しや鍋のふたでかるく押さえながらこんがりと焼く。焼き色がついたら裏返して同様に焼く。
(参考文献:「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」パンフレット)
かくしてカールらは、新装のフードトラックを「EL JEFE」(スペイン語でシェフの意味)と名付け、訪れる土地特産の食材を活かした料理を販売しながら、マイアミからロサンゼルスまでアメリカ大陸を横断する旅に出発する。
面白いのは、10歳のパーシーがFacebook、TwitterなどのSNSに投稿した旅の模様を不特定多数の潜在顧客たちが勝手に見つけて拡散させ、当事者たちが知らないうちに「EL JEFE」が行列のできる店になっていくところである。
無知から炎上を招いたネット音痴の父の汚名を、幼い頃からネットに慣れ親しんだ息子が晴らす形で、映画的なカタルシスとなっている。
そしてロスに帰還したカールを待っていたのは、仇敵ミシェルからの意外な申し出だった……。
「アイアンマン」と「クレイマー、クレイマー」
本作で製作・脚本・監督・主演の4役を務めたジョン・ファブローは、「アイアンマン」シリーズ(本連載第48回参照)の1作目と2作目で監督を務めるとともに、シリーズを通じて主人公トニー・スタークの運転手ハッピー・ホーガン役で出演している。
その縁から「アイアンマン」シリーズでスタークを演じたロバート・ダウニー・Jrや、ブラック・ウィドウ役のスカーレット・ヨハンソンら有名スターが共演しているのも見どころの一つである。
また、レストランのオーナーにダスティン・ホフマンを起用した背景には、彼が「クレイマー、クレイマー」(本連載第75回参照)で演じたフレンチトーストのエピソードが、キューバサンドイッチを通じて父と子が切れかけた絆を深めるという今回の物語にヒントを与えたことに対する、ファブローなりの謝意が込められていると推測している。
- 公式サイト
- http://chef-movie.jp/
- 作品基本データ
- 原題:CHEF
- 製作国:アメリカ
- 製作年:2014年
- 公開年月日:2015年2月28日
- 上映時間:115分
- 製作会社:Aldamisa Entertainment, Kilburn Media
- 配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
- カラー/サイズ:カラー/シネマ・スコープ(1:2.35)
- スタッフ
- 監督・脚本:ジョン・ファブロー
- プロデューサー:ジョン・ファブロー、カレン・ギルチリスト
- 撮影:クレイマー・モーゲンソー
- プロダクション・デザイン:デニス・ピッツィーニ
- 編集:ロバート・レイトン
- 衣裳デザイン:ローラ・ジーン・シャノン
- キャスティング:サラ・フィン
- キャスト
- カール・キャスパー:ジョン・ファブロー
- マーティン:ジョン・レグイザモ
- トニー:ボビー・カナヴェイル
- パーシー:エムジェイ・アンソニー
- モリー:スカーレット・ヨハンソン
- リーヴァ:ダスティン・ホフマン
- アイネズ:ソフィア・ベルガラ
- ラムジー・ミシェル:オリヴァー・プラット
- ジェン:エイミー・セダリス
- マーヴィン:ロバート・ダウニーJr.
- フローラ:グロリア・サンドバル
- マイアミの警官:ラッセル・ピーターズ
(参考文献:KINENOTE)