“ケーキ”風味の透明ウォッカ「UV」
ワインで有名な やまや がかなり冒険的なウォッカを販売している。ベースとなっているのはブランド名「UV」というアメリカ・ミネソタ州のウォッカで、1950年代からフレーバー・ウォッカを作っているメーカーからの輸入品。日本に輸入されるのは「UV」の19種類のラインナップの中の10種類で、とくに目を引くのが“ホイップクリーム”風味、“ケーキ”風味、“チョコレートケーキ”風味の3種類。筆者は“ホイップクリーム”と“ケーキ”を試飲したが、見た目は透明なのに確かにホイップクリームとケーキの香りがする。その意外性もあって女性の来場者に好評で、価格も1380円と挑戦しやすい。筆者個人の好奇心から言えば、いかにもアメリカ的な“キャンデーバー”や“レモネード”(ともに日本未入荷)も怖いもの見たさで試してみたい気がする。
アメリカ人は素材に別の香りを加えることにアレルギーがないようで、筆者の知人(FoodWatchJapan 編集者)が米国ワシントン州のフライドポテト工場の視察に行って「御社が使うジャガイモの味の管理はどうしているのか?」と尋ねた際、工場責任者はわが意を得たとばかりに目を輝かせて「いい質問だ。今回、我が社では新たなフレーバーを4種類導入した!」と語ったという話を聞いたのを思い出した。日本人は伝統的に「素材が勝負」で、かくいう筆者もスターバックスを初めとするシアトル系コーヒーが日本に上陸した際、ヘーゼルナッツやらキャラメルやらのシロップ添加が店のウリだと聞いて目を丸くしたことも想起される。
現在では少し大きな街に行けば一等地にスターバックスやタリーズがあることから見ても、日本人の「素材至上主義」は時代遅れな筆者を残して薄れていっていると認めざるを得ない。筆者にとっては驚きの“ホイップクリーム”“チョコレートケーキ”風味のウォッカだが、今の若者たちには受け入れられる可能性は高そうだ。
こちらの会社では“チェリー”風味や、若者に人気の「キャプテン モルガン」のようにスパイスで味付けしたウイスキー「STOKE」(やまや扱い)、オーガニックのコーン・ウォッカ「PRAIRIE」、蒸留回数を5回にしたプレミアム・ウォッカ「LUXURIA」(日本未入荷)も販売しているので、アメリカなりに「プレミア品」と「フレーバーもの」の使い分けはできているようだ。
このブースでは、他にも中国の洋酒市場の拡大と言う意外な話が出てきた。これら一連のラインナップの輸出販売を手掛けるRum River Beverage Companyが置く外国事務所の中でヨーロッパはスペインだけである一方、アジアには日本・韓国・中国とオーストラリアに駐在事務所を置いており、中でも中国のマーケットが伸びているという。
同社のプレミアム・ウォッカ「LUXURIA」を試飲してみると50度と言う度数を感じさせないのだが、同社の国際販売担当主任Jose Sandoval氏の話によれば、中国の消費者から「度数がもの足りない。もっと強いものを」と言われるという。その声に応えて、何とストレート飲用を念頭に置いた「LUXURIA」にもかかわらず、度数を60度にしたバージョンを今年新たに発売するという。
ジャパニーズ・カクテルの拙稿でも触れたが、中国は紹興酒などもち米の醸造酒(16度前後)を好む南方と、コーリャンを主原料とした茅台酒などの蒸留酒(50度以上)を好む北方で大きく飲酒文化が分かれるのだが、それにしても60度だ。最初、この話を聞いた時は「強い酒を飲める“見栄”のようなものか」と思っていたのだが、レポートのために改めて調べてみると天津高粱酒のように62度というものもあるので納得した。
ハーブ好きにはこたえられないカクテル用のハーブ・ドリンク
鮮やかなグリーンのハーブドリンクがFOODEXのイタリア・ゾーンに出展していた。「88 ITALIA」というブランド名でパスタ、黒トリュフ入りバルサミコ、フルーツのコンポート等を展開するブランドで、ラインナップから察せられるように添加物や保存料を使わないプレミア食材系のメーカーらしいのだが、こちらのハーブドリンクはカクテルへの使用を前提にしているということで採り上げよう。日本に紹介するラインナップには、バジル、セロリ、セージがあり、実際に試飲した感想としては、セージが面白かった。同社の指定レシピでは、このセージ・ドリンクとウォッカを同量加え、倍量のスプマンテ(イタリアのスパークリングワイン)で割るのだが、これも地元のイタリアンで試したところ、ウォッカは少なめにしたほうがセージ特有の香りが際立つようだ。
シソやサンショウがあるように、日本人も昔から香草は活用していたわけだが、ハーブと言うと外国のイメージが強いし、“コアな”バーテンダーは日本では一般的とは言い難いハーブに特別な思い入れをする傾向がある。サンブーカ(甘草)までいくとかなり重症だが、コカブトン(コカの実)、アブサン(ニガヨモギ)然りで、“憧れ”は洋酒やカクテルでは重要なポイントになる。一方、たとえばミントなどは子供のころからガムでおなじみということもあって香り以上の評価はなかなかされない。
●88ITALIA(セージ・ドリンクの問い合わせ先)
http://88italia.com/
グラッパ嫌いが造ったグラッパ
見本市会場で見つけづらいものの一つにグラッパがある。“ワインの森”の中にせいぜい1本か2本が並ぶと言う場合が多く、ここで立ち止まると次から次にワインの試飲を勧められるので先へ進めなくなる。“森”にはまりこまないように見つけるためには“オシャレな形の瓶”を見つけることがポイントになるのだが、それらしい瓶を見つけると上もののオリーブ油だったり、バルサミコだったりするという失敗は今回も多々あった。
最初に見つけたのはシチリア産のグラッパで、最初は皮革やゴムを連想させるのだがゆっくり味わっているとヴィナッチェ(※2)の奥からブドウの香りが顔を出す。
次に見つけたグラッパは北イタリア・ベネチア近郊にあるBOTTEGA(ボッテガ)社のグラッパだった。面白いのは、グラッパが苦手なオーナーが誰にでも好まれるグラッパを目指して造ったことだ。グラッパはものによっては確かにゴム臭、皮革臭、接着剤臭がして好みがかなり別れる。しかし、ここのグラッパはそういったグラッパ特有の個性的な香りはあまりしない、飲みやすいタイプになっている。
興味を惹かれて輸入商社のサイトをのぞいて、グラッパが水を一滴も加えずに作られているものだということを初めて知った。輸入元であるメモスのサイトによれば、加水によるゴマカシを防ぐため、ヴィナッチェを洗浄することすら認められていないとのこと。芸術的な瓶と併せて、総じてグラッパの値段が高いのはこの辺にも理由があるらしい。筆者もグラッパやマール(※3)については知らないことが多く、グラッパというと頼むのはサシカイアとオルネライアばかりだったので、詳しいバーがあったら行ってみたいと思う
●メモス(ボッテガのグラッパ取扱い)
http://www.rakuten.ne.jp/gold/itamono/grappa.html
※2 ヴィナッチェ:グラッパの原料となる、ワイン用ジュース搾汁後のブドウの皮や種。
※マール :フランスの滓取りブランデー。