沖縄県の伝統食品豆腐ようをご存じだろうか。原料の豆腐からは想像できない濃厚な味わいで、ヤミツキになる方もあるという。ただ、アルコール度数が高いので、お子様と下戸の方はお避けいただきたい。
醤油造りのプロが書いた大豆の本。大豆は豆として調理されるだけでなく、さまざまな加工品となることで人類に栄養を供給し、豊かな食文化も花開かせてくれている大いなる豆。そんな大豆はどこから来たどんな豆なのか、そしてどんな可能性を持っているのか。大豆と半世紀付き合って来た技術士が大豆愛とともに徹底解説します。
豆腐ようとは何か
豆腐ようは沖縄県の特産品で、「よう」は、漢字で「餻」と書く。栄養価が高く、病後の滋養食としても重宝されたという。かつては琉球王国を治めていた王侯貴族だけが食べることができた珍味で、庶民は縁遠いどころか存在すら知らなかったことだろう。
形状は2cm程のサイコロ状で、トロッとした漬け汁をまとっている。通常、1個か2個を小皿に盛って供する。鮮やかな紅色が普通だが、近年は白色のものも作られている。紅白並べると縁起がよいということで、贈答品にも適している。
名称からわかるように、豆腐が主原料である。ただし、豆腐とはかけ離れた奥深い味わいで、多くの食通をうならせてきた。
琉球王国は南西諸島の島々からなっていた。中国と日本に隣接する地理的条件から、日本、中国、東南アジア諸国との中継貿易の拠点として発展した。独立国だったが、中国大陸や日本の支配力および南方文化の影響を受けながら独自の文化を築いてきた。明治時代になって日本と統合された。
豆腐ようの起源にもこうした地理・歴史がかかわっているようで、中国の腐乳(フウルウ)にあるとされる。腐乳も豆腐を原料とした醗酵食品だが、これについては回を改めて取り上げたい。
豆腐ようの作り方
豆腐ようの原材料表示を見てみよう。メーカーにより多少の差異はあるが、一般的な例は、「豆腐、泡盛、紅麹、黄麹、食塩、豆腐凝固剤」である。
固く絞った島豆腐(シマドウフ/沖縄式の豆腐)が主原料になる。サイコロ状に切り分けて乾燥し、これを泡盛、紅麹、黄麹、食塩からなる漬け汁に浸して3~6カ月間醗酵させる。
漬け汁を構成する原材の料配合比率と作り方が重要で、そこがメーカーの腕の見せ所になる。使用する泡盛も多様だが、漬け汁のアルコール濃度が9%という例がある。これに食塩が加われば、微生物の生育は困難だろう。亜熱帯地域における腐敗を避ける知恵である。したがって、豆腐ようの場合の醗酵とは、麹由来の酵素作用を指すことになる。
麹を作る微生物は、紅麹が紅麹菌(Monascus purpureus)、黄麹が麹菌(Aspergillus oryzae)である。白色の製品は、色素を生成しない紅麹菌を使用する。いずれも糸状菌(カビ)である。
豆腐成分で重要なのはタンパク質であるから、分解酵素としてはプロテアーゼとペプチダーゼに注目したい。タンパク質をプロテアーゼが分解してペプチドを生じ、これをペプチダーゼが分解してアミノ酸を生じる。
黄麹だけでも、特徴が異なる多彩なプロテアーゼとペプチダーゼを含む。これに紅麹が加われば、生じるペプチドとアミノ酸の多様性が広がり複雑になる。ただし、高いアルコールと塩分は酵素の作用を阻害したり失活させたりすることがある。そのため、香味が整うまで、どうしても時間を必要とするのである。
豆腐ようの味わい
豆腐ようは一般的な食品ではないため、身近な店舗では手に入れにくい。一粒が120~250円と高価である。ネットであれば入手は容易だ。検索してヒットするのは、沖縄県のメーカーになるだろう。意外なところでは、大塚食品が豆腐ようから工夫した「あわ紅豆腐」を徳島県で製造している。
●あわ紅豆腐
http://www.awabenidoufu.com
筆者は、JR有楽町駅近くの沖縄県物産館「銀座わしたショップ」で2品購入した。両方とも同様の食べ方の指示がある。約2cm角という小さな塊りであっても、「決して一口でパクッと食べないように」と強い調子の注意喚起。作法として、「楊枝で角を削るように少しずつ舐めるように食せ」という。理由は明らかで、前述の通りアルコール濃度が高いのである。小児やアルコールに弱い人には適さない食品だ。このことの注意書きは、店頭で見た1品には欠如していた。
開封して小皿に盛り、口に運んだ。アルコールの香味がやや気になったが、濃厚なうま味が口腔に広がった。ウニ、カニみそ、アン肝、フォアグラといった食材を連想するが、どれとも異なる。食感はクリーミーで、舌の上でとろける。上記食材がお好きな方は、試されることをおすすめする。泡盛等の酒類に合うとされていることも触れておこう。
豆腐ようを味わっていると、琉球の王侯貴族の気分に浸ることができる。しかし、改めて考えると、現在の我々の生活は当時の王侯貴族をも上回っている。空調がある部屋で日々おいしい食事を摂り、どこへ行くにもほとんど歩かずに済む。先進国12億人の人間がこの暮らしを享受している。いつまで続けることができるのだろう。