新年明けましておめでとうございます。
今回は刑務所で正月を迎える人々を描いた2本の映画に出てくるおせち料理などの食事を取り上げます。
「刑務所の中 DOING TIME」のビューなメシ
「刑務所の中 DOING TIME」は、花輪和一の漫画を原作に「十階のモスキート」(1983)「月はどっちに出ている」(1993)等で知られる崔洋一が監督した2002年の作品である。
物語は、ミリタリーおたくが高じて銃砲刀剣類等不法所持及び火薬類取締法違反で懲役3年の判決を受け北海道の十勝刑務所に服役した花輪(山崎努)の視点で刑務所内の受刑者の日常生活を事細かに描いたものである。
受刑者は当然のことながら厳しく自由を制限され、「先生」と呼ばれる刑務官の指導のもと、雑居房で他の受刑者と規則正しい共同生活を強いられる。
しかし「くさいメシ」と揶揄されることの多い食事の内容は意外にも豊かであり、花輪と同房でお坊ちゃん育ちの受刑者・伊笠(香川照之)はそれを「ビュー(北海道弁で、よい、素晴らしい)だね」と表現している。
献立は栄養価に配慮して作られ、米七部に麦三部の麦飯もヘルシーと言える。
中でもベテラン受刑者の佐伯(木下ほうか)が回想する大晦日と正月三が日の料理は品数豊富な豪華なもので観る者の食欲をそそる。そのメニューは、
大晦日
《夕食》おせち料理折詰(エビフライ、チキンフライ、羊羹2分の1本、鯛練り(鯛をかたどった練り切り)、厚焼き玉子、ニシン昆布巻き、漬物、ヒレカツ)、白米ピラフ、春雨スープ、みかん、えびっぷり(袋菓子)、年越しそば
元日
《朝食》白米(白米だけの飯は正月のみ)、豚肉とさやえんどうと丸餅2個の入った雑煮、鮭缶、身欠きにしん、ふりかけ2袋
《昼食》白米、お袋煮(油揚げに具を詰めたもの)、牛すき煮、茶碗蒸し、奈良漬、パインジュース
《夕食》白米、シュウマイ、アジフライ、うま煮、りんご
1月2日
《朝食》白米、さくらえび佃煮、小女子佃煮、さんま缶、ねぎと卵の味噌汁
《昼食》牛丼、大根と人参のなます、卵豆腐、栗きんとん、袋菓子の羊羹
《夕食》白米、オムレツ、あべかわ餅、牛肉の大和煮、フルーツサラダ
1月3日
《朝食》白米、まぐろフレーク缶、赤貝佃煮、麩の味噌汁
《昼食》中華丼、エビチリ、いか缶、ヤクルトミルミル
《夕食》白米、とんかつ、なめこ汁、フルーツヨーグルト
といったものである。
映画ではこれらの料理を一つずつブツ撮り(物を単体で撮ること)で積み重ね、年に一度のハレの食事であることを強調している。
花輪のセリフで「シャバよりここで食う飯の方が何百倍、何千倍もうまいのはなぜだろう」というのがあるのだが、それは取りも直さず、食べているときだけは万人が自由だからに違いない。
「極道めし」のおせち料理争奪戦
「極道めし」は漫画アクションに連載された土山しげるのグルメ漫画を原作に、「ブタがいた教室」(2008/連載第25回参照)の前田哲が監督した2011年の作品である。
大阪の浪速南刑務所・204房では年末の恒例行事として「おせち争奪戦」が繰り広げられる。そのルールは、今まで生きてきていちばんうまいと思った食べ物の話を各々が語り、聞き手が喉をゴクリと鳴らしたら1点獲得。最も点数の多かった者が、皆から1品ずつおせち料理をもらうことができるというものである。
元ホストの相田(落合モトキ)は、客の取り合いで傷害事件を起こし、店の金を持ち逃げして田舎の実家に逃げ帰った際に母親が作ってくれた手料理。男やもめで元テキヤの南(勝村政信)は、一人息子と恋人とで行った海岸でのエビやホタテ、サザエ等の海鮮バーベキュー。東北出身で元力士の覆面プロレスラー・チャンコ(ぎたろー)は、相撲部屋を脱走して行き倒れになっていたところを助けてくれた同郷のスナックのママ特製の“オムカレボナーラ”(カルボナーラ入りのオムライスにカレーをかけたもの)とおっぱいプリン。房の最年長でリーダー格の八戸(麿赤兒)は、幼い頃に兄弟と盗んだ牛を屠って家族全員で囲んだすき焼きの鍋の話をする。そして元チンピラで頑なに心を閉ざしていた新入りの栗原(永岡佑)も、恋人からの手紙をきっかけに重い口を開き始める……。
彼らの「勝負めし」の話に共通しているのは、人生の転機に愛する人が側にいたことである。三つ星の高級レストランや料亭で出る料理の方が本当はうまいのかも知れないが、人の温もりに寄り添った味こそが記憶に残るものなのだろう。
では、あなたが今まで生きてきていちばんおいしかった食べ物は何ですか?
今年も皆様が素敵な食&映画ライフを過ごされますことを心から祈っています。
作品基本データ
【刑務所の中 DOING TIME】
ジャンル:コメディ
製作国:日本
製作年:2002年
公開年月日:2002年12月7日
上映時間:93分
製作会社:ビーワイルド、衛星劇場
配給:ザナドゥー
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(11.85)
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(11.85)
レイティング:一般映画
メディアタイプ:35mmフィルム
◆スタッフ
監督:崔洋一
原作:花輪和一
脚色:崔洋一、鄭義信、中村義洋
製作総指揮:石川富康、岩城正剛
企画・製作:若杉正明
プロデューサー:榎望
撮影:浜田毅
美術:磯見俊裕
音楽プロデューサー:佐々木次彦
録音:鈴木肇
音響効果:齋藤昌利
照明:松岡泰彦
編集:川瀬功
衣裳:鳥野圭子
製作担当:氏家英樹
助監督:中村隆彦
スクリプター:小泉篤美
スチール:平野晋子
デジタルエフェクト:内田剛史、今井元
VFXプロデューサー:佐藤高典
CGI:金井圭一、小榮浩
◆キャスト
花輪:山崎努
伊笠:香川照之
田辺:田口トモロヲ
小屋:松重豊
竹伏:村松利史
ティッシュマン高橋:大杉漣
掃夫友田:伊藤洋三郎
医官:椎名桔平
浜村:窪塚洋介
ミリタリー中田:遠藤憲一
ミリタリー佐藤:浅見小四郎
ミリタリー田村:粟田茂
ミリタリー木下:恩田括
ミリタリー佐伯:小木茂光
大内:木下ほうか
岸田:長江英和
野口:榎戸耕史
中井:戸田昌宏
加藤:山中聡
戸川:斎藤征義
原山:森下能幸
それじゃさま青島:黒沼弘巳
藤島:草薙良一
工場担当横山:斎藤歩
計算工山本:大橋一三
班長内田:村上連
配食係:中村義洋
クロスワードの受刑者:林海象
佐々木さん:本田徳樹
本島:宮川宏司
モミアゲの受刑者:本間盛行
看守稲川:三原康可
看守杉野:飯島大介
看守水上:田邊年秋
工場区長:小形雄二
看守中村:辰巳浩三
看守北見:旭洋一
看守草野:井上利則
舎房区長:本間典勝
少年時代のハナワ:小野光哉
中学生のハナワ:斎藤祐也
【極道めし】
ジャンル:ドラマ
製作国:日本
製作年:2011年
公開年月日:2011年9月23日
上映時間:108分
製作会社:「極道めし」製作委員会
配給:ショウゲート
カラー/サイズ:カラー/アメリカンビスタ(11.85)
レイティング:一般映画
メディアタイプ:35mmフィルム
◆スタッフ
監督:前田哲
原作:土山しげる
脚本:前田哲、羽原大介
エグゼクティブプロデューサー:大月俊倫、百武弘二
プロデューサー:春名慶、小河原修、池田慎一
撮影:谷川創平
美術:露木恵美子
装飾:松尾文子
音楽:吉岡聖治
録音:加藤大和
音響効果:小島彩
照明:金子康博
編集:高橋幸一
衣装デザイン:高橋さやか
ヘアメイク:池田美里
キャスティング:田端利江
製作担当:田嶋啓次
助監督:是安祐
スチール:千葉高広
◆キャスト
栗原健太:永岡佑
南真太:勝村政信
相田俊介:落合モトキ
チャンコ:ぎたろー
八戸伍三郎:麿赤兒
水島しおり:木村文乃
栗原あや:田畑智子
石原刑務官:田中要次
岩本刑務官:木下ほうか
五所川原:でんでん
相田千鶴:木野花
真里:内田慈
(参考文献KINENOTE)