「きな粉塩麹」はいかが

きな粉
きな粉牛乳。和菓子材料として多く使われてきたきな粉だが、家庭でもさまざまに利用されるようになってきた

正月は、もちにきな粉をからめて食べた方も多いことだろう。きな粉の香りは香ばしく、素朴だが懐かしい味である。伝統的な食材だが、近年はヘルシーさが見直されて用途が拡大し、生産量も増加しているという。

 きな粉の歴史は定かではないが、奈良時代の僧侶が食べていたという記録があるらしい。製法は単純なため、古くから存在したことは推測できる。

 地味な食材であり、生産量の正確な統計は存在しないようである。「昭和30~40年前半にかけて減少傾向だったのが、50年代に下げ止まり、以後微増し、昭和62年度の生産量は約7,000トン」という記述がある(「プロのための食材の基礎知識」太木光一著、オータパブリケイションズ)。

 近年はヘルシー食材として見直され、抹茶やゴマとともに生産量が伸びている。2007年の原料大豆の使用量は1万6000t。歩留まりを90%とすると、1万4000t程度の製品を出荷したことになる。

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きな粉の製造と原料

きな粉
きな粉牛乳。和菓子材料として多く使われてきたきな粉だが、家庭でもさまざまに利用されるようになってきた

 大豆を炒って粉末にした食品がきな粉である。市販のものは工場で大規模に生産されているが、作り方はいたって簡単だ。原料大豆を焙煎機に投入し、220℃前後で30秒程度処理を行う。これを粉砕機で粉にするだけである。全粒大豆を粉砕することが多いが、いったん荒砕きして種皮を除いてから粉にすることもある。

 平釜を用いて焙煎する場合は、160℃・10~20分が目安になる。高温短時間処理では、製品の色調が淡色化する傾向がある。また、粉末の粒度が細かくなっても淡色化する。しかし、きな粉の色調はやや黄色味が感じられる方が好まれることが多い。処理条件や粒度で対応できない場合は、ウコン等の着色料の使用が一つの選択肢になる。

 原料としては、油脂分が少なくタンパク質が多い大豆が適している。国産大豆の品質がよいが、高価なためシェアは26%に止まり、主に家庭用として用いられている。残りは輸入だが、輸入先は中国が57%と多く、米国26%、カナダ17%である(2007年)。

香りが持ち味・スイーツ素材として注目

 きな粉は、独特の香ばしい香りが持ち味である。水分は5%程度と低いため、保存は湿気を避ける必要がある。栄養成分は原料大豆とほとんど差がなく、タンパク質と脂質に富む。加熱して粉状にしてあるため、炒豆や煮豆に比べタンパク質の消化性は改善されている。一方、重要なアミノ酸のリジンは加熱により栄養価が低下する。160℃10~20分で、有効性リジンは20%以上減少する。また、焙煎による加熱により、還元糖の果糖が増加する。

 なお、大豆に含まれるトリプシン・インヒビター等の有害物質は通常の加熱処理で問題のないレベルまで低減する。きな粉は比較的簡単に自作できるが、加熱条件は配慮する必要がある。本連載で以前触れたとおり、加熱不足のインゲン豆で食中毒事件が発生している(第11回「マメ類の有害物質」参照)。

 きな粉は業務用の利用が多く、6割強を占める。用途として多いのは、なんと言っても和菓子である。有名なものを列挙してみよう。安倍川もち、五家宝、きな粉飴、わらびもち、くず餅、うぐいす餅と数が多い。

 これに加えて、近年増えているのが和菓子以外のスイーツやデザート用素材である。コンビニ等では、魅力的なスイーツを揃えることが店全体の売り上げ増につながるとされる中、ヘルシー感と和風テイストのあるきな粉はうってつけの素材として注目されているという。

家庭での使用も多彩に

 家庭におけるきな粉の用途はもちやご飯に使われることが一般的だろう。近年は、さらに積極的に活用する動きがある。少々前のことになるが、NHKのテレビ番組「ためしてガッテン」では、「知らなかった! きな粉 劇的活用術」(2006年10月11日 http://www9.nhk.or.jp/gatten/archives/P20061011.html)を放送した。この番組では、きな粉を加えておいしくなる料理として、みそ汁等を紹介している。効果の秘密は「ピラジン」という香ばしい香り成分にあるという。アミノ酸と糖分からアミノカルボニル反応(メイラード反応)により生じる成分である。また、多様に活用できる「万能きな粉だし」の作り方と使用方法も併せて紹介していた。

 インターネットで検索すると、この他にもきな粉を用いたレシピは大量に見つけることができる。中にはごく単純な活用法もある。つまり、牛乳や豆乳に混ぜるだけというものだ。これにはヘルシーというだけではない期待が寄せられているようだ――「豊胸効果があった」というコメントが少なからず存在する。

 ただし、健康や美容によいとされる食材であっても、多量に摂るという行為は決して好ましいことではない。

 さて、筆者はNHKが紹介した「万能きな粉だし」に対抗して、「きな粉塩麹」というものを作って使用している。塩麹にきな粉を少量加えたものである。きな粉の香りは、料理によって使いにくいものもあるだろうが、うまく使えば特徴として生かすことができる。

「きな粉塩麹」のよさは、なりよりうま味の増加である。塩麹に乏しいうま味成分のアミノ酸が、タンパク質の分解により加わるのである。けっこう使えると自画自賛している。

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About 横山勉 99 Articles
横山技術士事務所 所長 よこやま・つとむ 元ヒゲタ醤油品質保証室長。2010年、横山技術士事務所(https://yokoyama-food-enngineer.jimdosite.com/)を開設し、独立。食品技術士センター会員・元副会長(http://jafpec.com/)。休刊中の日経BP社「FoodScience」に食品技術士Yとして執筆。ブログ「食品技術士Yちょいワク『食ノート』」を執筆中(https://ameblo.jp/yk206)。