まず価格を計画し、それに商品を対応させていくやり方を取っている限り、超過収益力を持つことはできない。独自の価値を持つには、心理的な価値を創造する必要がある。その最も強いものは、お客の人生にかかわる商品や店を作ることだ。
価格以外の価値を創造する
それでは、ある日突然高い金額に書き換えた値札を付けて売ればいいかと言えば、もちろんそうではありません。なぜなら、前回の末尾で触れたように、消費者は渥美式チェーンストア的に展開しているチェーンに対して「安いものを売る店」というブランド・イメージを持っているからです。方針を変えると言って突然値段を上げれば消費者は裏切られたと思うでしょう。
そうではなく、低価格を魅力とすることをやめて、価格以外の価値を訴えるビジネスに切り替えていく必要があります。安いという以外の価値を創造し、伝えることができなければ、全く意味がありません。この活動をブランド構築と言います。
Planned Price Competition
その前に、今一度、渥美式チェーンストア理論に沿ってチェーンを作り上げてきた結果として、現状のブランド・イメージがどのようであるかを顧みておくことです。
正確には調査を行うこともできますが、身近な人に聞いてみれば、結果が以下のようであることは容易に想像できます。すなわち、「安売りをする」店であり、「高級店ではない」のであり、「洗練されたイメージは浮かばない」でしょう。むしろ、高級なイメージにならないように努力してきたかもしれません。
前々回、渥美式チェーンストア理論では価格レンジごとに業態を決めたり、商品戦略を立てたりしていることに触れました。ターゲットとする価格があり、そこに合わせて商品・サービスを用意するわけです。これは、言い換えればPlanned Price Competitionであると言えます。つまり、消費者を行政のようなものと見立て、競争入札をしているようなものです。
このような形で考えている限り、他社に比べて大きな収益を生み出すということはできません。消費者が想像したとおりのものを、その想像の範囲で売るだけのことだからです。価格競争から脱却を目指す必要がある理由は、ここにもあるのです。
心理的な価値が必要になる
他社に比べて収益を大きくするには、同じようなものを同じように(安く)売ることをやめなければいけません。つまり、“標準価格+α”にできる方法を考える、その“+α”が何によって可能になるかを考える必要があります。この“+α”があることを「超過収益力がある」と言います。私は、渥美式チェーンストア理論の中に、この概念を見出すことができませんでした。
この発想がないから、前回触れたように「スノビズムに応えるもの、豪華な物品、ギフト、遊興などの商品・サービス」を取り扱うことができないのだとも考えられます。あえて厳しく言えば、日用品を薄利多売し、さらにより利を薄く、より売りを多くする競争を続けながら、仕入先と一緒に疲弊していくしかないでしょう。
超過収益力を持つには、商品・サービスを即物的にとらえることをやめなければなりません。これは、商品を物体としてだけ見るのではなく、それにまつわる心理的な価値を高めるということです。
お客の人生にかかわる店
たとえば、1枚のサーロインステーキを売ることを考えてみます。生の肉をスーパーで買えば600~800円ぐらいでしょうか。それをレストランで3000円以上の価格で売ることができるのはなぜでしょうか。焼いて調理し、それを運ぶ手間賃と家賃、光熱費が乗っているという説明をしてしまえば、消費者はスーパーに寄って家へ帰ってしまうでしょう。
家庭ではできない調理法で、腕のいい料理人が調理し、日常生活ではちょっとない親切な接客をしてもらい、自宅にはないインテリアも楽しめる、などのことがはっきり伝わってはじめて、では3000円を払ってそこへ行くかどうかを考えてもらえるはずです。
しかし、実はそれだけでもまだ弱いのです。「あの店はいつか誰それと行って楽しかった」「○○年目の結婚記念日に行った店」「○○歳の誕生日にいつもと違う△△を食べたっけ」などなど、その人の人生にかかわることと結び付いて、愛着をもって記憶されたときに、価格も物体としての商品も超えた価値を感じてもらえるのです。そうなれば、安売りを考える必要がないばかりか、近所に競合店が出来ても、そう簡単にはお客は離れないでしょう。
このような店がハリボテのような内装で、決まったセリフを棒読みするしかできないスタッフが運営している店で納得されるはずはないのです。
というのは一つの例ですが、このようなことをベースに、自分たちの店についてさまざまにアイデアを出して工夫をこらし、実行していく活動が、“+α”には必要です。
こうした店が売るのは、モノではありません。コト、つまり消費を楽しむ経験です。ですから私は、「“コト売り”に努めましょう」と言うのです。