日本の外食チェーンは、計画的に“値下げ”を志向しているケースが多い。一般に“値引き”は行っていないが、やはり業界全体として価格競争に陥っていくことは避けがたい。
プランド・プライス・コンペティション
日本の外食産業は、プランド・プライス・コンペティション(Planned Price Competition)、つまり「低価格の計画的実現を狙ってビジネス・モデルを構築」し、そのために客単価をコントロールし、従来よりも低価格であることを新しい価値として、既存業態から「価格を武器として顧客を奪い取る」形で発展してきたし、今日でもこのような競争を日夜繰り返す産業だと言える。
この低価格はダンピングではなく計算され計画された価格であり、その実現のために“凡事の非凡な徹底”を行うために、高収益も同時に実現できる。しかし、価格志向の産業である限りは、激しい価格競争が連鎖的に起きていくのは当然の結果でもある。ある外食チェーンが新しい価格で他から顧客を奪えば、やがてさらに新しい外食チェーンが新しい価格で顧客を奪い返すことになる。いつどの時代でも、どの業種でも、価格で奪った客は価格で奪い返されるのが常だ。
一方、価格を高めに設定し、相応の新しいサービス内容を付加して業態を変えることも行われてはいるが、外食産業全体の傾向的としては、顧客数が増えることが予想しやすい低価格化競争に走ることが多い。今日までのところ、外食産業の主要な競争力は低価格であることに変わりはない。
値引きを発生させないしくみ
そのため、外食産業の顧客接点では計画的な“値下げ”はあっても、計画外の“値引き”は通常行われない。しかし、外食チェーンという固有のチェーンを補完する外部の企業を含めたサプライチェーン全体を見ると、これを構成する各モジュールに対して、外食チェーン本部からの値下げ要求は頻繁に恒常的に行われている。
通常、顧客からその状況が見えない理由は、商流過程でのチェーン本部の利益確保の独特の方法によるところが大きい。
外食のフランチャイズ・チェーン(FC)の場合、本部は各FC店の希望小売価格による売上金額あるいは利益に対して、一定の比率でロイヤルティを設定して徴収する方式を採っており、この他にも店頭での各種システム使用料を取ったりする方式であるため、双方間の取引形態の中で、他の業種で一般的なマージン、コミッション、インセンティブなどの「値引きに流失する部分」が、基本的には発生しがたいビジネス形態をとっているからと言える。チェーンの中のこのような取引形態が、“値下げ”はあっても“値引き”のほとんどない業種・業態を実現させている。
これは、同じように強力な本部を持つFCであっても、コンビニエンス・ストアなどとも違った状況になっている(ただし、本部の弱いフランチャイズ・ビジネスでは“値引き”も起こり得る)。
その他、外食産業の特色として、提供する食材の内容、範囲、提供の仕方が客単価によって異なってくるため、基本的には客単価が業態を規定する大きな目安になっている。この実態は、著者にとっては非常に新鮮な印象を受けるものであった。