日本の外食産業は原料調達から顧客への商品提供・消費までのあらゆる段階をモジュール化しており、外食チェーンはそれを組み合わせるプロデュースを業とする形になっている。これは強みである半面、弱点も潜在する。
外食産業は自動車産業以上にロボット化している
今日の日本の外食産業は、商流・物流の多数の部門を上下に渡って“一気通貫”で作り上げている業種・業態である。すなわち、原材料の調達・卸などの商流・流通、全体のシステム構築とマネジメント(チェーンストア本部)、商品を調理し加工する工程(セントラルキッチン)、中間完成品のロジスティクス、顧客接点(店)作りと運営、最終工程で使用される調理機器、厨房設備、店内の什器備品その他の供給、などだ。
直営志向の大手はこれらすべてを自社化しようと動いているが、これらのいずれについても専門業者がいて、外部化が可能になっている。実際に主要な要素を相当に外部化しているチェーンもある。
このように、外食産業では、商流の各プロセスがグループ分けされ、その各プロセスでモジュール化された構成プロセスや設備を作っている。このモジュールをチェーン本部が自由自在に組み合わせて、“独自の業態”というモジュラーとしてトータルにプロデュースするようになっていると言える。
つまるところ、これは自動車産業など大量生産型の工業と同じ産業であると見ることができる。つまり、各プロセスが作り出す各部品(モジュール)を組み立て(アセンブル)して中間的な完成品(流通仕掛り在庫)を生産し、店舗で若干の加工を加えて販売商品として最終完成させて販売するのだ。
しかも、外食産業が自動車産業と大きく異なるのは、前回述べたように顧客接点から人的要素を排除する“ロボット化”を志向している点だ。店舗では調理も接客もマニュアル化している上、店が決めた取引の手順を顧客にも浸透させて顧客の行動もマニュアル化し、すべてを単純・正確・短時間で完了できるようにしている。つまり、自動車販売のように複雑な要素のあるビジネスよりも、飲料の自動販売機網の運営に近い業態を志向したビジネスだと見ることができる。
外食産業はファブレス化している
また、各プロセスのグループ化・専門化が進んでいるため、随時モジュールを組換え、新しい設計情報を付け加え、新しい業態として改編し、時代ごとの社会的な要求の変化にも対応させる(外食産業の場合、社会的要求のほとんどは価格を指す)ことも容易だ。したがって、外食産業はトータル・プロデュースによるプロセス産業という見方もできる。
さらなる低価格実現のためには、各モジュールの生産を担当する専門化した企業自身も、類似のモジュールを作っている競業企業との競争に勝つため、日夜新しい技術を取り入れて革新を遂げている。
外食産業の本部のコアコンピタンスは、新しい食を提供する業態を設計し、新しい商品の品目やレシピの開発、チェーン運用のシステムの高度化、運営の合理化などトータルな視点の開発能力・プロデュース力にあると言えそうである。
このように考えると、多くの外食チェーンが、セントラルキッチンと呼ばれるアセンブリング工場があることは承知しているが、このアセンブリング工場の役割は小さいか、小さくなることを求められているように見える。そのため、私には、外食チェーンは限りなく、工場を持たない製造業(ファブレス)に近いように見える。