今週から外食産業の中核をなす外食チェーンの特徴を見ていく。この過程では、これまで成長の源泉とされていた“外食産業の常識”が、現在の低迷の要因となっていることを指摘し、最終的に外食産業を新しく発展させるための視点を共有したい。
すべてはコストカットのため
私の企業経営のモットーの一つは、「凡事の非凡なる徹底」だ。経営にウルトラCはない。誰もが当たり前と思えることを徹底することが、良質な経営の第一歩であるし、その徹底が非凡と言えるレベルに達すれば、従来なかった価値をも生み出すことができる。すでにある価値すなわち凡事を適切かつ精巧に組み合わせることから、イノベーションは可能となるのだ。
さて、故渥美俊一氏の提唱したチェーンストア運動を含めて、私はこの数カ月チェーン・ビジネスを再点検しているのだが、その過程で、チェーン化によって躍進した外食産業においても、ある種の凡事の徹底は行われてきたことが確認できた。
それは、“原料調達から最終顧客への引き渡しないしは顧客による消費まで”の全体で、“コストカットの実現を目的とした凡事の非凡な徹底”が行われているということだ。しかも、外食産業の原料調達から最終顧客までの間には幾多のビジネス階層や、異なる機能を持った多くの関係者が関係するという比較的難しい環境の中でのことだ。
外食産業が「顧客満足度=価格満足度である」と考えている限りにおいては、「低コスト・低価格で最終顧客に迅速に提供することを実現する」という目的のために「凡事の非凡な徹底」を図っていることには、相当に成功している。
外食産業7つの弱点
だが、それでいいのだろうか。業界人にとっては常識的なことであったとしても、外部の人間から見ると首を傾げたくなるような事柄(世間の非常識)がある。凡事の徹底で目指すものが、詰まるところコストカットに収斂してしまうというそのこと自体も、私には実は疑問だ。
そのことに続いて、さらに7つの弱点を指摘し、計9項目について考え、外食産業復活へ向けての低減を行っていく。
1.「顧客満足度=価格満足度」の常識は正しいのか(今回)
2.強すぎるキャッシュアンドキャリー志向
キャッシュアンドキャリー化は、ファストフードサービスに留まらず、テーブルサービスのレストランにも及んでいる。
3.強すぎる製造業化志向
外食産業は製造業の考え方を取り入れて伸びたが、製造業になってしまえば自滅するしかない。
4.店舗の自主性自発性の強すぎる抑制
接客を含む作業のマニュアル化は人件費削減に効果を発揮したが、各店舗が独自に生み出す価値の可能性の芽を摘んでしまっている。
5.強すぎる価格コンシャス
客単価が業態を決めるという発想が染み付いているが、競争のポイントも価格となり、自然に価格競争に陥る。
6.形だけのブランド管理
ビジュアルの仕様と利用規程などは細かく規定されている場合が多いが、それはブランド管理の末端の要素でしかないことが理解されていない。
7.顧客の店舗への関与は希薄
飲食店は通常アフターセールスサービスを行わないが、そのため来店を繰り返すあるいは習慣化してもらうには、特別な努力が必要となる。
8.外食チェーンは模倣されるしくみを持っている
製造業化、マニュアル化によって価格競争を行うということは、当然に他社の模倣を生み、容易に主役として取って代わられる。
9.モノからコトへの回帰を
本来の飲食店は、物質ではなく体験を売ることに向くビジネスである。チェーンストア化以前に持っていた飲食店の特徴をレビューし、よい点を適切に取り戻すことで道はひらける。
次回以降、以上の各項について詳述していく。