光合成で作られる炭水化物と、作物が吸収する窒素の量のバランスが崩れると、生長や結実に悪影響が出る。そこで、光合成量に合わせて窒素供給量を調整することが理想だが、予め数十日分の肥料を与える作物栽培ではそれが難しい。しかし、そのコントロールが可能となる方法として養液灌漑という方法が開発された。
光合成と窒素のバランスが重要
作物の体の姿が光合成を最大限に働かせられる形になっていれば、作物の体の内部でも栄養がバランスよくとれています。そうなるように持って行けるかどうかが、農業の技ということです。
このための作物の栄養管理で、最も影響が大きいのが窒素です。窒素は作物を大きく生長させる成分ですが、過繁茂の状態になれば光合成で得られる炭水化物と窒素化合物とのバランスを崩してしまいます。
このことに気を配っている人は意外と少ないのですが、野菜などに含まれる硝酸態窒素の濃度に関係してきます。通常、作物は窒素を硝酸態窒素の形で体に取り入れ、これを他の窒素化合物に作り替えて体を作ります。ところが、光合成で得る炭水化物が少なく、吸収する硝酸態窒素が多いという形でバランスが崩れると、再合成されない硝酸態窒素の形のまま植物の体に蓄積されます。
これは野菜等では味にダイレクトに影響します。そしてこういう場合には虫食いも多くなるものです。また、とくに欧米では食品として有害なものとして問題にされることがあります。
過繁茂はまた、イネなど実の作物の場合には登熟を悪くする原因にもなります。
天候に合わせた臨機応変の対応は難しい
そのようなわけで、光合成の状態に応じて、施肥もコントロールする必要があります。
その一つは気象への対応です。たとえば、曇りや雨が続くと光合成があまり行われなくなります。また、土壌の乾燥や過湿によって根が衰えると、光合成が制限されるということも起きます。こうした場合、炭水化物の生成が減少しますから、窒素の供給を控えないとバランスが崩れてしまうことになります。
ただ、ここが作物栽培の難しいところです。
動物は、毎日使う栄養を毎日与えますから、量やバランスを毎日変えることができます。ところが植物の場合、土壌に何日分にも当たる栄養を肥料として一度に施用することになります。その向こう何日かの間に、予想していなかった天候となれば調整が利きません。
植物を動物のように養う養液灌漑
これに対して、あたかも動物を飼育するがごとく、作物に与える栄養を日々刻々とコントロールできる方法がないかと考えられたのが、養液灌漑です。
水耕栽培も同じ考え方を持ったものですが、露地の畑で行う養液灌漑は乾燥地帯を中心に海外では大きな成果を挙げています。
これには点滴灌漑(drip irrigation)というしくみを使います。点滴灌漑はその名のとおり、水を散水するのではなく、特別な構造を持つ点滴チューブから水をポタ、ポタ、と滴らせて供給するものです。滴下のスピードは、土壌への浸透スピードを上回らないように調整します。
点滴チューブはもちろん普通の水を与えることもできますが、液体肥料を溶け込ませて与えることができます。それで、これを使ってそのときそのときに最も適した栄養を供給することができるのです。
ただ、降水の多い日本では、露地畑で灌水を行うということ自体や最新の灌水技術に対する関心は薄く、あまり普及していません。しかし、こうした技術を知り、機構を理解することは、従来通りの栽培での施肥の意味をより深く理解することにもなります。