カルシウムは植物の細胞壁に不可欠な成分で、植物の体を支える材料と言えます。これはとくに生長の際に欠乏すると大きな障害の元となります。
植物の体を支える成分
カルシウム。農業の現場では石灰と呼ぶこの成分のお話をするのは楽しみでした。というのも、あらゆる作物を上手に作るコツはここにあるとも思えるからです。しかし、学校では「植物の栄養は窒素、リン酸、カリの3要素が重要である」と学校で教えるのが普通ですから、カルシウムが大事だなどとは思わなかったという人が多いかもしれません。
カルシウムが植物にとってたいへん重要な成分だということを理解するには、まず植物と動物の細胞の違いについて知っておく必要があります。
ここでは学校で教わったことを思い出してください。植物の細胞には細胞を周囲から囲むような頑丈な組織、細胞壁があります。これは動物にはありません。
植物の体の中では、細胞壁が段ボールの容器のように細胞を包んでいます。そのため、たとえば植物が水を吸えずに細胞が小さく弱くなっても、ただちに萎れてしまうことがなく体を支えていられるのです。また、植物が強い風にあおられるようなことがあっても、ぐにゃぐにゃと折れずに立っていられるのも、細胞壁が強度を利かしているためとも言えます。
植物にとってそのように大切な細胞壁ですが、これの主たる成分はペクチン酸カルシウムというものです。
ペクチンはジャムに粘りや固さを持たせる成分だと聞いたことがあるでしょう。また、牛乳と混ぜて凝固させる「フルーチェ」もペクチンの働きによるものです。あのべっとり感というか粘りを生じさせるものがペクチンですが、これがカルシウムと結び付くと硬くなります。カリカリ梅と呼ばれる食べ物がありますが、あれは梅の実のペクチンがカルシウムと結び付いてペクチン酸カルシウムとなり、組織を固くしてカリカリとした食感になっているものです。
そのようなわけで、カルシウムは建物にたとえると建築材料のセメントのようにイメージできるでしょう。これが不足すると建物は弱くなります。建物の形がいびつになるかもしれません。また、修理する必要が発生しても修理できないということになります。
生長点に常に供給されている必要
さて、このカルシウム、植物にとってはとくに必要になるタイミングと部位というものがあります。それは、細胞が新たに作られる時、新たに作られる部位です。新たに作られる部位とは、植物が生長するところ、つまり生長点です。
生長点という言葉も学校で教わったと思いますが、簡単に言えば植物の先端の軟らかい部分です。たとえば発芽して伸びようとしている新芽、幹や茎から葉が出てくる前の葉芽、花が咲く前のつぼみなどの部分です。
この生長点にカルシウムが送られないと、新しい細胞壁を作る材料がないということになりますから、うまく生長できません。そういうとき、植物の外観はどうなるかというと、先端部分が枯れたようになります。
もしそのようにはっきりと目視できるほどの症状が出ていなくとも、生長しようとするタイミングでのカルシウム不足は重大なマイナス要因となります。
また、カルシウムの供給不足は地上部だけでなく、地下の根の先端にも起こり、これはさらに重大なダメージとなります。