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農業生産を行う現場を7つに分類し、それぞれについて、土のあり方と栽培の実際について説明していく。2回目の今回からは、土壌のメカニズムの理解のために、地表の土を使わない栽培について説明していく。
地表の土を使わない栽培
前回から、農業の現場を7種類に分けて考えています。なぜそのように分けたかと言うと、これらを順に理解していくと、土壌が何であるのかという理解が深まるからです。
2回目の今回のタイトルは、なかなか学者的表現で取っ付きにくいかもしれません。しかし、難しい話というわけではありません。栽培のために地表の土ではないものを用い、それが固形であるということです。つまり、私たちがベランダで趣味の植物を楽しむ場合と同じことです。
私が住む静岡のメロンも、多くが地球から切り離した空間に置いた器に土を入れて栽培していますが、これも固形培地の一つです。
この固形培地は、一般の畑の土とは違った点がありますが、同じこともたくさんあります。その違いと共通性を見つけていくことも大切なことです。
化学的な役割は持たない
最初に、培地という言葉の意味を押さえておきましょう。
実験室で働いている方は、培地と聞けば寒天培地などを思い浮かべるでしょう。シャーレに固めた寒天に何かを塗りつけて微生物が繁殖するかどうかとか、植物の切片が細胞分裂を繰り返して何かになるかとかを見る様子が、テレビにもよく出てきます。
ところで寒天培地の寒天は、そこで培養するものにとって何か特別な意味を持っているでしょうか。恐らく、調べる対象が沈まないようにするとか、不要なものを混入させないなどの物理的な環境を整えているだけで、化学的にはほとんど意味を持たない点が、意味のあるところではないでしょうか。
作物を栽培する培地も、同じように見てください。培地とは“培う(つちかう)場所”ということで、つまり作物の根がはう所だということです。
たとえば砂は、土壌として見ればやせた畑の土の代表のように思われていますが、砂地の圃場を持つ野菜産地には多くの優良な産地があり、長年高い評価を受けています。
また、粗い礫だけの培地でも、作物を育てることは可能です。土がなければ植物は育たないと思っている方も多いと思いますが、水だけでも作物は育つのです。
水耕栽培と同じに見る
さらに、ロックウールというものを培地に使う栽培もあります。ロックウールというのは、鉱物を溶かして綿のように加工したものです。建築で断熱材や防音材として使いますが、農業生産の現場でも栽培用にpHを調整したものがたくさん使われています。これは、第12回で説明した塩基交換容量(CEC)が非常に低い、つまり肥料成分を保つ力がほとんどない資材ですが、これを用いた栽培は世界中で安定した結果を残しています。
他にも、ピートモス(ミズゴケなどの植物が泥炭になったものを乾燥、粉砕などしたもの)、バーミキュライト(蛭石という岩石を膨張させたもの)、ココヤシ繊維、なども、ロックウールと同様の使い方で栽培に用いることができます。とくに、実用化されているのはココヤシ繊維やピートモスです。
これら、礫、ロックウール、ココヤシ繊維、ピートモスなどは、作物に対して何をしてくれているでしょうか。これらは、土壌のようにそれ自体が肥料を蓄えて、作物の根に少しずつ供給してくれるというものとは違います。根がはう場所と、適切な水分を保ってくれるのが主な役割です。
その意味で、実は固形培地を用いた栽培は、養液の中に根をはわせる水耕栽培と同様のものと言えます。
学者は、固形培地での栽培と水耕をいっしょに語るということはまずしないと思います。みなさんも「“固形”と“水”では違うじゃないか」と思うでしょうが、あえて非常識なとらえ方に挑戦です。
このとらえ方で見れば、土壌の役割の理解がいっそう進むはずです。(つづく)