「魚魚あわせ」という一風変わったカルタがある。水族館の飼育スタッフ、魚の研究者などが集まって作り、関西電力グループの環境関連事業を行う会社が販売している。何かを伝えたり、覚えてもらうためには、遊びとして組み立てることも有効だと考えさせられる。
若い層に密かなカルタ人気
以前はよく歩いた神田神保町から水道橋に抜ける白山通りを久しぶりに歩く機会があった。その途中、大正10年創業という「奥野かるた店」をのぞいてみた。
カルタは、若い人たちの間で密かなブームになっているという。とくに長い歴史を持つ百人一首早取りの全国大会に関心を示す若者が急増しているようである。男女とも永世名人に若い20代の王者が生まれているし、「超訳百人一首 うた恋い」(杉田圭著、メディアファクトリー刊)というマンガが10万部を超える売れ行きとも聞く。
これらは関心の高さの表れであり、また関心を高めるきっかけにもなっているだろう。永らく地道に放送を続けてきたNHKの苦労も報われ始めているのに違いない。
また、昨今は盆栽収集や歌舞伎などの伝統的な領域に若い世代の関心が向きつつある流れもあり、これらとも規を一にするところがあるように思える。
さて、私がこのカルタ専門店をのぞいてみたのは、こうした若い人たちの関心のあり方を知りたいということもさることながら、どうもFoodWatchJapanで紹介できる食べ物のネタがありそうだという第六感が働いたからでもある。これは当たりであった。
最近のカルタばやりを反映したものか、「魚魚あわせ」(環境総合テクノス)なるカルタが目に止まり、購入してきた。
遊びのために覚えたくなるしかけ
「魚魚」は「とと」と読ませる。懐かしい幼児語の「とと」からの命名だが、サッカーくじのtotoにも通じて、古くからあり、賭け事にも使う花札を連想させる。これがカルタとしてなかなかの逸品であった。
札は2枚1組になっていて、両方を左右に並べると、美しい千代紙で表現された魚の絵と、魚偏の漢字1字が完成する。たとえばマグロ(鮪)の札は、左側が偏の「魚」の字とマグロの頭の方が描かれており、右側に旁(つくり)の「有」の字と尾の方が描かれている。この左側の札は読み札にもなっていて、遊び方としては、トランプの神経衰弱のようにも使えるし、百人一首のようにカルタ取りにも使える。
江戸情緒も感じさせる風情ある魚の絵もよいが、読み句もなかなかよく出来ている。たとえばマグロであれば「海原を縦横無尽に大回遊 海の恵みのトロの味」、タイであれば「祝い魚 明石・鳴門の渦潮育ち 身もひきしまり 甘さことさら」とある。生き物としての魚の特徴や産地だけでなく、刺身なりすしにしたときの色合いや味、うまみ、歯ごたえなどの特徴までを、端的に表現し、かつ深い知識も押さえている。
これまで「京都丹後版」に始まり、「加賀・能登版」「瀬戸内版」など御当地ものでラインナップを増やして来て、現在12種類の「魚魚あわせ」がある。最新版は「全国津々浦々版」(52種収録)というもの。外国人観光客の日本土産にもなる英語バージョン「Sushi Bar版」もある。
私が求めたのは「江戸前版」で、各々の魚をネタにした江戸前の握りずしの名前や姿をからめてゲームに仕立て上げている。
このゲームを楽しむためには、まず魚偏の漢字自体と、魚の呼称・読み方をを知らねばならない。また、すしネタとなった際の握りずしの状態や、魚の全体像についても知っている必要がある。したがって、誰でもがすぐにでもできるゲームではない。まずは漢字の勉強から始めなければならない人が圧倒的多数であろう。
だが一方、楽しみながら学べるよさがある。また、すし店に行った時の、ネタに関する興味が深まることは間違いない。このカルタをモノにすれば、多少の物知り顔もできるかもしれない。
さて、私は「江戸前版」33文字中11文字を知らなかった。これは早くモノにして、自慢顔ですし店へ繰り出さねば、と決意した次第である。