中国で人気を集めている「味千ラーメン」の成功の秘密は何か。前回説明した立地戦略および商品戦略と、今回説明する店舗の規模・構造は、“変える部分”だが、それらとは別に“変えない部分”がある。この両面を持つことが、中国という新市場で成功するカギだ。
大きな店舗・クローズドキッチン
店舗の規模や構造も、日本とは大きく違って、中国式のレストランと同じになった。
ほとんどの場合、店舗面積は日本のファミリーレストランと同等程度となっている。中国では、店が小さければ、人気がない、儲かっていないと思われやすい。また、中国では、都会のビジネスパーソンが一人でランチということはあっても、普通は一人で外食をするということはない。食事は友達や家族と一緒に楽しく味わうという文化があるので、そもそもカウンター席というものがないし、テーブル席も2人掛けというのはほとんどなく、4人掛け以上が標準という特徴がある。こうなると、自然に店舗面積も大きくなる。
そして、厨房は完全に見えなくなっているクローズドキッチンが標準だ。
日本では、オープンキッチンや、完全にオープンでなくても厨房と客席の間の仕切りを一部はずしたクロスカウンターになっている店舗は多い。これは、家賃が高くて店舗面積が小さくならざるを得なかったとか、厨房から直接料理を提供できるようにして人件費を圧縮したいとかの事情もあったのだろう。この結果、ある意味では調理人の一挙一動はすべて“監視”されるようになったが、お客は作る人と直接会話ができるわけでもあり、このような形式は厨房と客席が完全に分断されたクローズドキッチンにはない、特別のメリットもあるとも思われる。
しかし中国では、店舗面積は比較的広いためか、あるいは厨房の中の作業を見られたくないと考えるためか、厨房はクローズドになっている。
しかし、私は今後中国でもオープンキッチンが受け容れられると考えている。厨房がオープンになって、今まで見られなかった実際に調理している様子が見えるようになることは新鮮であるし、どう作られるかがわかる安心感にもつながるからだ。
変えない部分がある
しかし、実際に食べてみれば、日本と変えない部分もあることがわかる。「味千ラーメン」なら、日本にないトッピングの種類が多くても、どんなにサイドメニューが多くても、また店舗の形式が違っても、看板メニューであるラーメンの味は日本とあまり変わらないと個人的に感じている。トッピングに違いはあっても、麺とスープの味のバランスは守られているではないか。つまり、日式ラーメンの特徴、言い換えれば、ラーメンの命であるスープをきちんと守っている。
「味千ラーメン」と「餃子の王将」の焼きギョーザについても、日式ギョーザの特徴である、薄い皮と詰め込んだたくさんの具という特徴は変わらない。さらに、「味千ラーメン」のメニュー表では、中国語だけではなく日本語のタイトルと説明も添えており、日式ギョーザの“こだわり”を訴えている。
日本と変えない部分はラーメンの味以外にもう一つ重要な点がある。
中国に進出した中華料理店に行ったことがある現地の友人に聞いてみると、ほとんどが「好吃」(Hao Chi。おいしいの意味)と答える。また、味が気に入ると同時に、多くの人は、日式の丁寧なサービスと店舗の清潔さに感心しているようだ。
中国ではラーメンやギョーザといった庶民的な料理を提供する店のサービスと清潔さはいまひとつなのだ。それに対して、日本から中国へ進出した中華料理店は、中国現地でも日本でと同じサービスとクレンリネスの管理に手抜かりがない。
中国と日本それぞれの外食市場への影響
これらは、中国の外食に好影響を与えている。日本の飲食店が中国に本格的に進出してからはまだ日が浅いが、これから時間が経つにつれ、日式のこうしたよい面が中国現地のものと融合し、また何か新しいものが生まれていくに違いないと期待している。
一方、日本へのよい影響もあるはずだ。本場に戻って、本場の空気、本場の人々と出会うことで、日本のラーメンやギョーザのさらなる進化にもつながるだろう。たとえば、中国で人気のあるメニューからヒントを得て、逆に日本での提供も考えるケースは出てくるだろう。今は日本では提供されていない中国らしいトッピングにも、これからは日本のラーメン店でも見られるものも出てくるだろう。
メニューだけではなく、立地、店舗形態も、このような中国での経験は、新しいものを生み出すきっかけになるだろう。
日式ラーメンと日式焼きギョーザという中華料理は、海を渡って中国料理の本場で定着しつつある。日本で進化して出来たおいしさは中国の人々にも受入れられている。
日式中華料理店が教える海外市場必勝の勘どころ
おいしさには国境がない。中国に進出した日式の中華料理店は、料理そのものを提供するだけでなく、料理に含まれる日本文化を体験する“窓口”にもなっているだろう。また、本場の中国料理の進化にも、一役買っていると予感する。
中国の市場に合わせて、変えるべきところは変える。一方、日本企業の強みの本質をよく理解して、守るべきところは守る――日本の中華料理チェーンが中国でこのような形のローカライズを行って成功していることは、日本の他産業においても参考になることだと思っている。