ゆばは、1200年前に中国から伝わったシート食品である。日本には、ゆばを筆頭に数々の伝統的なシート食品が存在する。そこに新素材も加わり、食卓を豊かにしている。
醤油造りのプロが書いた大豆の本。大豆は豆として調理されるだけでなく、さまざまな加工品となることで人類に栄養を供給し、豊かな食文化も花開かせてくれている大いなる豆。そんな大豆はどこから来たどんな豆なのか、そしてどんな可能性を持っているのか。大豆と半世紀付き合って来た技術士が大豆愛とともに徹底解説します。
伝統あるシート食品
紙のような形状の食品をシート(状)食品と言う(「日本大百科全書」小学館)。日本には、昔からシート食品がいろいろ存在した。おにぎりに使う板のりしかり、削り節しかり、昆布しかりである。少し厚めだが、たたみいわしも仲間に加えてよいかもしれない。
そして忘れてはいけない、ゆば(湯葉、湯波)があるではないか。伝統食品と言っても、板のりや削り節が考案されたのは、せいぜい江戸時代。それに対して、ゆばが中国から日本に伝わったのは1200年前である。僧侶最澄が仏教と共に茶やゆばを持ち帰ったとされる。
ゆばの製法と特徴
ゆばの作り方は、シンプルだがデリケート。濃い目の豆乳を加熱すると、表面に膜が出来る。タンパク質と脂質が凝固したもので、ラムスデン現象という。膜を破らないように竹串でそっと引き上げたものが、生ゆばである。これを乾燥させれば、干しゆばになる。京都の生産量が多いが、大阪や日光でもよく作られている。由来からわかるように、もともとは僧侶の食べ物だったようだ。豆腐やこんにゃくなどと共に精進料理の食材として門前町でよく商われたという。
生ゆばは鮮度が生命で、ポン酢やわさびしょうゆをつけて刺身感覚で食する。
干しゆばは、ぬるま湯で戻してから煮物や吸い物などに使用する。独特の「くにゅっ」とした食感がある。野菜を巻いたり、ユリ根やギンナンを包むシートとしての特性を生かした料理も多い。
干しゆばの栄養成分値は、水分6.5%、タンパク質53.2%、脂質28.0%、炭水化物8.9%、灰分3.4%である(五訂食品成分表)。水分が少ないため日持ちする。ただし、脂質が多いため酸化には要注意である。封をしっかりして冷暗所に保存するのが好ましい。
発祥の地である中国ではもちろん、台湾や韓国でも一般的な食材である。しかし、欧米では普及していない模様。京都は海外から大勢の観光客を迎えるが、初めて出会うゆばには戸惑うようだ。「ホットミルクに膜ができるが、その豆乳版」と説明すると理解が早いという。
新規食品の開発
厚さが0.05mm程度ととくに薄い食品をフィルム食品としてシート食品と区別することがある※。プルランなどの多糖類を母体として、みそ、梅、シソ、明太子などを練りこんだフィルムを作ることができる。板のり同様に利用するだけでなく、袋状に加工して乾燥具材や粉末スープを包むことができる。カップ麺であれば、具材等を小袋からあけることなくお湯を注ぐことが可能になる。
シート食品を名刺大にカットしたものを、カード食品と言う。ファッショナブルで携帯に便利、非常食としても活用できる。
これらの存在も、伝統あるシート食品が基礎になっている。数々のシート食品、フィルム食品、カード食品を従え、その頂点に君臨するのが元祖シート食品のゆばだと考えている。
※福田隆:日本家政学雑誌,41(No.7),651(1990)