前回から、普通の番組と通販番組の構成の仕方の違いについて書いています。普通の番組は最後まで結論を出さないことで興味をひきつけて視聴率を下げないようにするのですが、通販は短時間ですべてをわからせて納得させて、注文の電話を促すという違いをお話しました。ところが、地上波の通常の番組で敏腕を買われるディレクターさんたちが、この違いになかなか慣れないのです。そんな現場のオハナシを……。
「視聴率が上がっても売れるワケじゃないんですね~」
たとえば「ダイエット2週間チャレンジ」といったネタについて考えてみましょう。これはバラエティなどの通常の番組でも、通販番組でも扱うものです。
地上波の通常の番組なら、こんな風になるでしょう。
ダイエット開始
↓
順調に減量
↓
困難にブチ当たる
↓
もうダメか……。しかーし、衝撃の結果は後ほど!
↓
番組の最後で結果を披露(ヒドイときは「来週をお楽しみに!)
という感じで、ひっぱることひっぱること。
これに慣れたディレクターさんが、通販で同じネタを扱った場合、戸惑うのです。「なぜこんなにオイシイネタの結果をスグばらすの!?」と。
前回述べた通り、通販ではスグにネタをバラして商品に興味を向けないと、注文させる気を殺いでしまうのでそうなるわけですが、地上波の普通の番組に慣れたディレクターさんはすぐには納得できない。「ひっぱるほど視聴率は高まるんだ!=見ている人が増えるんだ!=商品を目にする人が増えるんだ!」と抵抗します。
しかしですねえ……実は視聴率が上がって見る人が増えても、注文数が上がるわけではないんです。筆者もいろいろな通販番組をやってわかったのですが「見させる」ことができても「買いたい気分にさせる」がフォローされていないと、なかなか注文数は上がらないんです。
「スタッフも泣いた感動ストーリーでマサカの敗北」
通販番組でも、地上波でやる場合は「視聴率」のデータが出ます。
筆者は、ある商品について愛飲者や切り口を変えた内容で毎週放送するという通販番組にかかわったことがあるのですが、「視聴率が上がっても注文数が減る」という特徴的な体験をしたことがあります。
商品は健康食品だったのですが、毎回「体の調子がいい」ばっかり言っていても飽きるから、「ある愛飲者の方の体の調子がよくなった。その結果、娘さんが喜び、孫が喜び……」という“感動”展開にしたんです。感動を呼ぶ展開にするには、その人物の背景や内面を描く必要があるので、その時間を取る分、商品の特徴を説明する部分を短くしました。その結果ですねえ……仮編集チェックで立ち会った人々すら涙するなどとても感動的な仕上がりに、そして放送後も「通販なのにこの数字!」という良い視聴率が出たんですよ。
じゃあ注文数は? というと……通常よりダウン!「えぇえええ!」です。つまり、感動展開にしすぎた結果、描いた人への興味で多くの人が見たけど、商品へ関心は薄れて注文につながらなかったということなんですね。感動で興味を引き付けたことは成功だったんだけど、その“出口”が商品になっていなかったんです。
「みんなが見てくれる内容が通らないという不条理」
このネタはその後改訂され、感動展開の後「この商品のおかげ!」というところを際立たせて、「何だかイヤらしいなぁ」と思っちゃう再編集が行われました。まぁ、その結果、注文数は回復したんですね。
他の方が作っている通販番組で、そうした感動展開→「おかげ!」のモノを見ると、制作の過程では同じことがあったのかな……と想像してしまいます。
もともと「売るため」に存在しているのが通販番組だとは言え、多くの人に見てもらえる内容に仕上げたらダメ出しされちゃった、というのは、なんとなくフクザツな思いでしたねぇ。