東京メトロの駅で配っているフリーペーパー「Metro Walker」冬号をなにげなく読んでいて、「体によい素材で温まる鍋」という特集に目がとまった。「日比谷線で味わう『しょうが鍋』で冷え性解消」と「銀座線で体温まる『トウガラシ鍋』を満喫!」いう記事が掲載されている。管理栄養士でありダイエットコーディネーター、料理研究家の女性の監修となっている。
前者は日比谷線沿線のしょうがを主役にした料理を出す飲食店を紹介している。たとえば六本木の「しょうがの香り。しゃぶ」、中目黒の「黄金のもつ鍋しょうが風味」、秋葉原の「生姜豆乳鍋」、恵比寿の「あさぎり豚の生姜鍋」など。
記事の冒頭で「健康によい食材として、依然ブームの続くしょうが」と書いているが、なるほど外食業界でもしょうがは注目の食材なのか。そこで今回はしょうがの健康的効能を紹介する。
インド原産・「魏志倭人伝」にも記述あり
まずショウガの出自。原産地は熱帯アジア、インドあたりだ。しょうがの英語名gingerの語源はサンスクリット語のsringaveramであるらしく、これは「角の形をしたもの」の意味。根茎部分が“鹿の枝角”に似ているからだ。
インドから中国に渡って「薑」(きょう)と名づけられる。「百邪を強力に防ぐ」つまりさまざまな病気を防ぐのに役立つ食べ物ならびに薬として用いられる。紀元前から利用されてきたという。
ヨーロッパではすでに11世紀頃にはイギリスで栽培されていたそうで、それが15世紀以降に西インド諸島やアメリカ大陸に伝わったという。
「魏志倭人伝」にも「薑」の文字が見られるという。ということは魏志倭人伝が書かれた3世紀以前には日本に伝わっていたと考えられる。そしてその後、奈良時代の遺跡から発見された木簡や平安時代の書物「延喜式」「和名抄」に「薑」が登場している。さらに江戸時代の農業書「農業全書」には栽培法が記されている。
冬の根しょうが・夏の葉しょうが
しょうがには大きく分けて2つのシーズンがある。冬を中心に収穫されるのが「根しょうが」で、土壌の栄養を十分に吸収してまるまると太ったしょうがだ。おろししょうがや紅しょうがの材料となる。一方、真夏に収穫するのが「葉しょうが」。文字通り、葉っぱ付きの若く小さいしょうがで「新しょうが」「谷中しょうが」というもので、ご存じの通り、味噌をつけてかじる。夏の“風物詩”だ。
根しょうがの酢漬けを「ガリ」という。すしには欠かせない名脇役である。なぜ欠かせないか。衛生インフラが整っている現代とは違い、かつては生ものであるすしには食中毒の危険性がいつも付きまとっていた。それを予防するのに役立つものがしょうがであった。昔の人の経験則の賜物である。
体を温め新陳代謝を活発にする
食中毒予防に役立つしょうがの成分は、しょうが独特の辛味成分であるショウガオールとジンゲロールで、たいへん優れた殺菌力を持っているという。
加えてこれらの辛味成分は血行促進作用にも優れている。血行を促すことで体を温める、新陳代謝を活発にする、発汗作用を高めるなどの働きがあることから、血行の悪い人、冷え性の人、太り気味の人にとくにお薦めの食べ物なのだ。冒頭の“しょうがブーム”のきっかけはここにある。
一方、しょうがのもう一つの大きな特徴は、サッパリ爽やかな香りである。この香りの成分はシネオール。食欲増進や疲労回復、夏バテ解消などに効果がある。冷奴の薬味におろししょうがを用いたり、谷中しょうがが真夏の風物詩となっているのは、香りが食欲を増進させるためだけでなく、厳しい暑さを乗り越えるという意味もあるのだ。
さらに言えば、“風邪の民間薬”という面もある。すりおろしたしょうがの搾り汁に熱湯を注いで、砂糖や蜂蜜を加えるしょうが湯だ。風邪による喉の症状を緩和する効果があるという。これには消化促進、健胃作用も期待できるらしい。