2017年食の10大ニュース[5]

メールマガジン「安心!?食べ物情報」の2017年の記事から。

  1. 給食センター食中毒
  2. 豊洲市場移転問題
  3. 禁煙法案のゆくえ
  4. 鳥インフルエンザ清浄化
  5. 原料原産地表示制度
  6. O157食中毒事件
  7. サルモネラ感染症
  8. カンピロバクター
  9. 機能性表示食品で措置命令
  10. 人手不足

《番外》子宮頸がんワクチン

1. 給食センター食中毒

 和歌山と東京で、学校給食での大規模な食中毒が発生しました。最初は両者に関連があると考えなかったのですが、後に両者で共通して使われていた「刻み海苔」がノロウイルスに汚染されていたことが発覚しました。

 刻み海苔の製造工場で、ノロウイルス入りの刻み海苔が製造されていたことは、製造工場の社長が自ら実演して見せて大きな話題になりました。

 給食の現場では、刻み海苔は袋から出してそのままふりかけるだけですので、現場の責任ではない、という議論も出てきました。

 しかし、理由の如何に係わらず、提供した給食により食中毒には違いありませんので、責任逃れはできません。仕入れ先管理の不備ということになります。

 刻み海苔を販売していた会社にとっては、刻む工程を下請に任せていたことが失敗の原因となりました。古くからのつきあいで、工賃も安く、便利に使っていたのだと思います。しかしやはり下請も自社工場と同等の衛生管理をしなければ、大きな損失になるということです。

 今後、こうした衛生管理ができない古い下請工場は淘汰されていく流れになると思います。

2. 豊洲市場移転問題

 東京都の築地市場から豊洲の新市場への移転は、今年も迷走を続け、移転時期こそ決めたようですがいまだに解決の目処が立たない状況です。

 必要とも思えない「追加工事」が入札の段階から難航しているとも聞きます。火のないところに煙を出してしまった都知事の失策はこれからも祟り続けるでしょうね。

 それにしても市場移転とオリンピックで数千億円の無駄遣いをしてしまったことに対して、東京都民があまりに鷹揚なのは不思議でなりません。東京以外だったらとても持たない金額なんですが。

 私も小池都知事がここまで無能だとは見抜けませんでしたが、ここに至っては都知事更迭(リコール)以外に円満な解決策はないようです。

3. 禁煙法案のゆくえ

 東京オリンピックを控えて、「公共の場所での禁煙」が求められるのですが、未だに道筋が見えません。

 前厚労大臣はよく頑張っていましたが、自民党の抵抗勢力が強くて、結局法案にすることができませんでした。その後はずっと後退した案になってしまっています。

 一時は東京都が禁煙条例を作るのかと思っていましたが、出てきたのは「努力目標」という馬鹿げたもので、やはり都知事に期待したのが間違っていました。

 そうした中、大手レストランチェーンなどは次々と完全禁煙化に舵を切りつつあります。

 完全禁煙にすると売上が増えるという説が有力になってきており、コストや従業員対策の面から考えても、完全禁煙化が得策であると理解されてきているようです。

「分煙」のレストランに行くと、繁忙時でも喫煙席だけは空いていることがよくあります。JRの特急が完全禁煙化される前に、喫煙車両にだけ空席があったのとよく似た現象です。

 こういう現象があった場合、利益を考えたら、即時全席禁煙化以外にはありません。

 何とか来年には完全禁煙化が進むことを期待しています。

4. 鳥インフルエンザ清浄化

 昨冬は鳥インフルエンザの防衛戦が闘われましたが、最終的に防ぐことができて何よりでした。

 日本には渡り鳥が飛来しますし、隣国の韓国が常に対策に失敗していて、迷惑がこっちに飛んでくるという悪条件もあります。

 野生の鳥は自由に飛び回りますから、家禽と分断する以外には有効な手段がなく、何とかそれに成功したということで、関係諸氏の努力に敬意を表します。

 今年もまた冬シーズンの到来ですが、今のところはまだ家禽に被害が及ぶ事件は起こっていません。

5. 原料原産地表示制度

 一応9月からこの制度が発足しましたが、まだ猶予期間もあり、世間の反応は鈍いようです。

 こういう制度は本来必要がないのに、「国産と表示すれば売れる」という幻想に乗っかって、農業対策のつもりで行われるものです。

 私は「動機が不純だ」と批判していますが、米菓の米の原産国表示で、輸入米と表示しても結局誰も気にしていなかったことから考えると、目的が達成できる可能性はほとんどありません。

 例外表示などなど、表示のルール自体も無理がありすぎで、一部の官僚の作文がたまたま実現してしまったというところです。今からでも遅くないので、取り下げてはいかがかと思います。

6. O157食中毒事件

 関東での惣菜店で発生した事件が大きく取り上げられましたが、同じ菌が広範囲に広がっていたという背景がありました。

 広範囲に出たO157の出処はおそらく同一ですから、未知の発生源があったと考えられます。

 関東の惣菜店はいろいろと批判されましたが、おそらく冤罪で、この広範囲での汚染の一端にすぎなかったのでしょう。

 マスコミの餌食になることの怖さを改めて感じた事件でもありました。

 結局、感染ルートは未解明ですから、来シーズンに再び“強烈な一撃”がやってくる可能性は高いと思います。

 私の勝手な憶測では、やはり“野菜”が怪しいですね。

7. サルモネラ感染症

 O157と平行して、山形県あたりでサルモネラ感染が広がりました。これもまだ原因が特定できていません。

 アメリカでは以前からときどき“パンデミック”として扱われる食中毒事件が起きていました。それに対して日本は安全な国だと考えられてきましたが、日本でもこれからは同じような状況になりそうです。

 これは汚染の状況が変わったというよりは、以前は追跡できなかったものが、最近ようやくアメリカ並に広範囲の汚染などを追跡できるようになってきたということなのだろうと考えています。

 日本の状況でいくつか気になるのは、農業生産現場のゆるさと、食品工場の衛生レベルのバラツキです。

 安全のためには、伝統的な“手作り”を賛美するような考え方は捨てなければならないと主張しておきます。

8. カンピロバクター

 カンピロバクターの食中毒も毎週のように多発していますが、O157やサルモネラとは様相が違います。

 こちらはカンピロバクターに汚染されているに決まっている鶏肉を生で食べるからという明白な理由があります。鶏肉は加熱してから食べるという原則さえ守れば、何も怖いことはないのです。

 おそらく、日本の家庭で鶏肉を生で食べているところはほとんどないと思います。それが居酒屋や焼鳥屋なんかに行くと、「鶏刺身」などを平気で注文するのですね。

 家庭にある鶏肉と店で使う鶏肉は衛生的には同じようなものですし、店の側に特別な知識や設備、技術があるわけでもありません。

 日本は職人の国とよく言われ、職人に対する評価が高いので有名ですが、鶏肉を生で出すような職人は素人以下です。

 とにかく、肉類は生で食べないこと!

9. 機能性表示食品で措置命令

 機能性表示食品としての届出には問題なかったのに、それを広告に書いたら怒られた、という事件が起りました。

 誇大広告というか、ウソはいけないということで、この取締は意味があると思いますが、その「ウソ」の具体的な内容は、「機能性表示食品」として届けてあるのです。

 これは機能性表示食品が詐欺の温床であるということに他なりません。

 多くの機能性表示食品は、原料メーカーから「機能性表示」できる原料を仕入れて、自社の製品に混ぜることで作られています。

 届出のときの書類なども原料メーカーから提供されるようで、広告の文言なども同じ原料を使った商品については、メーカーが違っても同じようなものになります。

 今回はその広告文が問題とされたので、似たような商品がたくさん、一網打尽にされました。

 原料メーカーからの誘いもあり、たくさんの食品メーカーが機能性表示食品を出していますが、商売として成功しているところは、以前からずっと取り組んできたメーカー以外にはほとんどないと思います。

 商売として成功していないとすれば、それはいわゆる助平根性を出して失敗するの図です。真面目なメーカーがその種の悪魔の誘いに乗ってしまうのを見るのはいかにも残念なことです。

 出しては見たものの売れていない機能性表示食品については、さっさと撤退して正業に励んでいただきたい。

10. 人手不足

 景気もずいぶんよくなって、人手不足が表面に出てきています。20年続いたデフレで、人手を減らして対応してきた会社が多いので、問題はより深刻になっています。

 ここにきてコンビニ業界が悪名高い外国人実習生制度を利用させろと言い出しています。

 これを見てわかるのは、今起こっているのは単なる“人手不足”ではなくて、“低賃金労働者の不足”だということです。

 経営者諸氏には気の毒ですが、デフレの時代に低賃金労働者に困らなかったことの方が異常事態でした。今後デフレが解消していくにつれて、人手を確保するためには賃金を上げるしかないという、常態に戻っていくのです。

 何百億円も利益を出している会社の店が(直営ではないとは言え)最低賃金ギリギリでアルバイトを募集し、その上で外国人の低賃金労働まで引っ張りこもうというのはまさしく恥を知れと言いたいところです。

 賃金を上げれば社会全体の売上は必ず増えます。それでみんながハッピーという成り行きを見ていたいです。

《番外》子宮頸がんワクチン

 食品ではないので“番外”ということで。

 子宮頸がんワクチンで推進派の論陣を張ってきた村中璃子さんが英科学誌「ネイチャー」などが主宰する「ジョン・マドックス賞」を受賞しました。これについてマスコミの反応は非常に悪く、当初は「産経と北海道新聞のみ」が報道したそうです。その後、朝日や東京新聞でも報道されたようですが、テレビではまだ報道しているのを見たことがありません。

 マスコミも「反ワクチン派」の片棒をかついだせいで困っているのでしょうが、科学的にはすでに決着がついていて、「反ワクチン派」の主張には根拠がなく、日本政府はワクチンを推奨すべしとWHOからも強い勧告を受けています。

「子宮頸がんにより、日本では毎年3千の命が失われ、1万の子宮が摘出されています」(産経ニュース)という事態に、対応できるワクチンがあるのに摂取を進めていかないのは犯罪的なことであると思います。

 日本政府も弱腰をやめて、強く推奨する政策を打ち出してほしいものです。

終りに

 ひととおり書いて読み直してみると、政府への批判的なものが多いですね。

“食”の分野は現在の政府の弱点なのかなあ、とも思います。しかし、残念ながら野党勢力は「反ワクチン」や「反原発」や「モリカケ」などでほとんどゴミクズ状態です。マスコミも野党応援団でゴミクズの仲間です。

 何とも先の見えにくい状態です。政府にとっては安全保障問題などの方が緊急性が高いのでしょうが、食の分野にもある程度のコストを分配して、この方面からも国民を守ることをお願いしたいです。


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About 渡辺宏 5 Articles
Webサイト「安心!?食べ物情報」主宰 わたなべ・ひろし 1974年から1998年まで生協に勤務し仕入れや商品開発にかかわる。1999年Webサイト「安心!?食べ物情報」を開設し、生協時代の経験を活かした、食に関する情報発信を行う。メールマガジン「安心!?食べ物情報 Food Review」を毎週発行中。また、その前年からWebサイト「宮沢賢治の童話と詩 森羅情報サービス」を運営している。2010年、中国・大連に食品販売会社を設立、総経理となる。著書に「『食の安全』心配御無用!」(朝日新聞社)、「食の安全 裏側の話―元生協仕入れ担当者が明かすつくり手の事情・消費者の言い分」(カザン)。和歌山市在住。