大豆を使用した食品には、数多くのトクホ(特定保健用食品)がある。これらで期待される効果を担うのが、含まれる関与成分であるが、それは大豆自体が持っているか、発酵過程で生じたものである。もちろん、通常の大豆食品にも広く含まれるものも多い。食生活全体のバランスの中でトクホ製品の利用を考えたい。
醤油造りのプロが書いた大豆の本。大豆は豆として調理されるだけでなく、さまざまな加工品となることで人類に栄養を供給し、豊かな食文化も花開かせてくれている大いなる豆。そんな大豆はどこから来たどんな豆なのか、そしてどんな可能性を持っているのか。大豆と半世紀付き合って来た技術士が大豆愛とともに徹底解説します。
2007年がピークだったトクホ市場
トクホ(特定保健用食品)は身体によい効果が期待でき、そのことを表示できる食品である。トクホとして販売するには、含まれる関与成分(保健機能成分)を明らかにし、効果や安全性をヒト試験により科学的に確認する必要がある。これらのデータを整えて、個別に国の審査を受け、表示許可(承認)を得ることになる。開発コストは小さくないので、製品価格が高くなるのは避けられない。
1991年の本制度発足以後、トクホ市場は順調に拡大を続けてきた。日本健康・栄養食品協会の特定保健用食品の市場規模調査によれば、同調査がスタートした1997年は1315億円だったが、2007年には6798億円にまで増大している。しかしその後下落に転じ、2011年は5175億円にまで縮小した。2009年10月、人気製品だった「エコナ」のトクホ許可失効の影響が大きかったに違いない。また、リーマンショックも無関係ではなかっただろう。よい効果があるとしても、割高なトクホ製品は敬遠された可能性がある。
この調査は2年ごとに行われているため、2012年の実績は不明だが、4%前後増加したとする推計がある。原因を思いつかれた方もいるだろう。「難消化性デキストリンにより、食事の際に脂肪の吸収を抑える」とするキリンビバレッジの「メッツコーラ」大ヒットの影響が考えられる。
大豆食品のトクホ
大豆食品からも、さまざまなタイプのトクホ製品が生まれてきた。これらを、まとめた結果を表に示す。大豆食品に含まれる関与成分を抽出または別途生産して製品化したタイプも加えてある。反対に、大豆食品に由来しない関与成分を添加したタイプの製品は除いている。
食品種類 | 関与成分 | 許可表示内容 |
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清涼飲料水、ヨーグルト、豆乳、ハンバーグ等 | 大豆たんぱく質 | コレステロールが高めの方に適する |
清涼飲料水 | リン脂質結合大豆ペプチド | |
粒状食品(豆チエキスつぶタイプ)、清涼飲料水 | 豆チエキス | 血糖値が気になり始めた方に適する |
清涼飲料水、卓上甘味料 | 大豆オリゴ糖 | お腹の調子を整える |
納豆(おなか納豆) | 納豆菌 K-2株 | |
清涼飲料水、豆乳 | 大豆イソフラボン | 骨の健康が気になる方に適する |
納豆(金のつぶほね元気) | ビタミンK2 | カルシウム等の吸収を高める |
顆粒食品(カルバイタル) | ポリグルタミン酸 | |
しょうゆ加工品(まめちから) | 大豆ペプチド | 血圧が高めの方に適する |
この中に、大豆タンパク質またはリン脂質結合大豆ペプチドを関与成分とするトクホ製品がある。清涼飲料水や豆乳等多くの例があるが、これらはいずれも「コレステロールが高めの方」が対象である。ただし、大豆タンパク質とリン脂質結合大豆ペプチドとで、作用機構は違っている。前者が直接コレステロールと結合するのに対し、後者はコレステロールと胆汁酸のミセル化(※)を阻害する。その結果、どちらもコレステロールの吸収を抑制する。
豆チ(とうち)エキスを関与成分とする粒状食品等は「血糖値が気になり始めた方」向けである。作用機構に、αグルコシダーゼ阻害が挙げられているが、「限定的な科学的根拠」とされる条件付トクホである。一定の有効性が確認されても、通常のトクホ審査における科学的根拠のレベルには達していない。豆チについては、浜納豆とともに解説している(第36回「浜納豆と中国の豆チ」参照)。
「お腹の調子を整える」清涼飲料水や納豆などのトクホ製品がある。大豆オリゴ糖または納豆菌K-2株を関与成分とする。前者は分解されることなく小腸に達し、善玉のビフィズス菌に資化(利用)され、増殖を助ける。後者も整腸作用があり、ビフィズス菌の菌数と占有率を上昇させるとともに、排便回数や量を増やす。小腸上部で一部芽胞が発芽し、ビフィズス菌の増殖促進作用を持つ成分を遊離するという。
大豆イソフラボンがエストロゲン類似作用を持ち、「骨の健康が気になる方」によいとされる(第9回「イソフラボンと環境ホルモン」)参照)。このことは広く知られており、清涼飲料水等の例がある。
納豆に多く含まれるビタミンK2は、骨タンパク質生産と骨形成促進を通して「カルシウム等の吸収を高める」効果がある(第22回「人類の発展に貢献できる納豆」)参照)。特別な納豆菌を用いてビタミンK2含有量を1.5倍に高めたトクホの納豆がある。また、納豆のネバネバ成分の一つであるポリグルタミン酸にも同様な効果があり、これを利用した例がある。カルシウムがリン酸と結合して排泄されてしまうことを防ぐという。
最後に紹介するのが、大豆ペプチドを関与成分とするしょうゆ加工品である。これは血管収縮にかかわる酵素(アンジオテンシン変換酵素/ACE)を大豆ペプチドが阻害することによる。
トクホでなければならないとは限らない
さて、大豆食品のトクホで期待される効果は、これらトクホとして販売されている商品に限られるものだろうか。多くの場合、そのようなことはないだろう。トクホで取り上げられている関与成分の大豆タンパク質、イソフラボン、オリゴ糖は、大豆はもちろん豆乳、豆腐、納豆等の大豆食品に広く含まれる。
骨によいというビタミンK2やポリグルタミン酸は、トクホとは含有量は違っても通常の納豆に含まれている。また、整腸効果があるとされる納豆菌K-2株の場合、対照実験の比較対象には煮豆を用いている。従って、通常の納豆菌と比較した場合、効果に差異があるかどうかは不明である。
リン脂質結合大豆ペプチドや大豆ペプチドは、大豆発酵食品中に普通に含まれる。みそ、しょうゆ、納豆等である。ペプチドの分子量や組成はさまざまだが、トクホ製品だけに効果があるわけではない。
ACE阻害活性は、広い範囲の大豆ペプチドに認められる。しょうゆは高塩分のため、高血圧に悪いと考えられがちだが、しょうゆには血圧を下げる機能があることが知られているのだ。
健康に必要な3要素は、栄養・運動・休養である。栄養バランスとカロリーに配慮した食生活を心がけたい。トクホ製品に過度の期待を寄せてはいけない。食生活全体に彩りを添える程度に抑えたいものである。とくに、サプリメントタイプはリスクがあり、避けることが好ましいと考えている。また、運動と休養も、意識してしっかり生活の中に採り入れることを忘れないようにしたい。
※たとえば、マヨネーズは食酢と油脂を混合したものだが、油脂は界面活性剤(レシチン等)に包まれた細かい球状の粒となって食酢中に分散している。この粒の外側は水と仲のよい親水基、内側は油脂と仲のよい親油基となっている。このような構造をミセルという。