水稲の苗作りを行いました

苗箱に床土を入れます
苗箱に床土を入れます
種籾と水を撒き(手前)、覆土をかけます(左上)
種籾と水を撒き(手前)、覆土をかけます(左上)
種蒔きの終わった苗箱
種蒔きの終わった苗箱
発芽機で発芽させます
発芽機(育苗機)で発芽させます

先週、水稲の種蒔きをやりました。稲作では主流として、まず苗を作り、その苗を圃場に移植すると言う方法が行われます。田植えです。

 あまりにも当たり前なやり方ですが、わざわざ「主流」と書いたのは、別のやり方もあるからです。種籾を直接圃場に撒いてしまうやり方(直播)です。日本では特殊な、ちょっと変わった田植え機のようなもので行いますが、アメリカなど外国では飛行機を使って撒いたりします。

 私の知り合いにも直播をやっている農家がいますが、うちでは一度もやったことがなく、すべて苗を作って植えています。私の周囲を見渡しての実感ですが、直播農法は5~10年前までのほうが広く行われており、最近は取り組む農家はだんだん減っています。

苗箱に農薬を入れるメリット

 稲の苗の作り方は単純に言うと、プラスチック製の苗箱にまずある程度の深さまで床土を入れ、その上に種籾と水を撒き、覆土をかけます。ここまではベルトコンベアを使った半自動の種蒔き機(播種機)で作業を行えます。

 その後、発芽機と言うテントのようなものに入れ、高温(30℃ほど)と高湿を数日与え、発芽したらビニールハウス等に一枚ずつ広げて並べ、ある程度の大きさにまで育てた後に圃場に持って行って田植え、という流れです。

 いくつかの農薬も種蒔きの段階で使用します。種蒔きのベルトコンベアの工程中に組み込み、苗箱の中に粒状や液状の、病気を防ぐ殺菌剤や殺虫剤を入れます。

 苗箱の段階で農薬を使用するメリットはたくさんあります。まず、病気や害虫に対処する農薬は苗箱に入れないならば圃場で使うことになりますが、その圃場での作業が一手間なくなります。また圃場で撒く場合、多くは動力散布機で撒きますが、どうしても撒きムラが出来たり、圃場以外の場所(隣の田んぼ・畑や道路、民家など)にも飛び散ってしまいます(ドリフトという)が、苗に農薬を入れておくと田植えと同時に薬を圃場に入れることになり、つまり圃場全体へかなり高い精度で満遍なく均一に撒くことができ、しかも他所へドリフトする心配もまずありません。そのため農薬の使用量も圃場で撒くよりも少なくできます。

※動力散布機での農薬散布の動画があったのでURLを置いておきます。ここで撒いているのは除草剤ですが。

https://www.youtube.com/watch?v=0SslrvzwZvA

 最近、悪名高い農薬としてネオニコチノイド系殺虫剤がありますが、稲作でのネオニコ系殺虫剤はこの苗箱使用が多くなっています。これなら苗箱から直接田んぼの中にすべて入ってしまうので、周辺のどこへやらや空気中などにはほとんど影響しないようにという使用法として意識されているわけです。

苗箱育苗のさまざまな改良

 苗を作っての稲作は苗代の頃(かつては苗箱ではなく圃場で苗を育てた)も含めると昔から行われてきていて、やり方として成熟していて信頼度も高いのですが、“枯れた技術”というわけでもなく、各農家が意外と大胆な工夫を盛り込んでいる部分でもあります。

 たとえば床土の材料を土以外の何かに置き換えることはよく行われています。苗はほとんど土の塊の上に水も含み、完成してしまうとかなり重いものです。そこで、土以外の何かを使って軽量化できれば、今は高齢者も非常に多い農業界ですから、そのメリットには大きなものがあります。

 で、代替資材の例としてはウレタンマットや、段ボールや古新聞などの紙の加工品、籾殻などさまざまにあり、うちでもいろいろ試したことがあります。ただ、紙系は軽いのはいいのですが、雑菌やカビに非常に弱くて対策が必須な上、あまりにも軽すぎて田植機での移植のやり方にも工夫が必要で、あまりいい印象はありません。

 それ以外の工夫で私が知っているのは、土を肥料に置き換えて苗をほとんど肥料の塊にしてしまい、圃場で肥料を撒く工程を省いてしまった人もいます。

 よい苗を作るのは稲作の基本であり、失敗してしまうと全くどうしようもないという最重要な工程です。それだけに各農家それぞれにいろいろなやり方があり、個性が最もあらわれる箇所かもしれません。その作業内容が普通の人の目に触れることはあまりないと思いますが、面白い部分だと思います。

アバター画像
About koume 3 Articles
農家 こうめ 石川県出身。3年間の会社勤めを経て、両親が従事していた稲作専業の農家に。大面積での大量生産よりは、量を絞ってもおいしい米にこだわって、その分やや高いお値段をいただく経営方針。農業での農薬の使用について、さまざまな誤解が広まっている現状を何とかできないかと考えている。ニセ科学批判や医療問題などにも興味がある。ブログ:【農家こうめのワイン】 過去に作ったコンテンツ:【基準値を通して安心するために】(農産物の残留農薬基準値についての解説)/【医療問題を注視しる!】(今の日本の医療が置かれている現状と問題について)